EU理事会、英離脱に伴う移行期間に係る交渉指令採択-政策決定に参画できず、法律は順守-

(EU、英国)

ブリュッセル発

2018年02月01日

EU理事会は1月29日、英国のEU離脱(ブレグジット)に伴う激変を緩和するための「移行期間」についての交渉方針を示した「交渉指令」を採択した。これは、欧州委員会がEU加盟国から交渉権限を付託されたことを意味し、移行期間をめぐる英国政府との交渉が本格化する。この交渉方針によれば、離脱完了以降の英国は移行期間中、EUの政策決定には参画できず、加盟国としての発言権がないにもかかわらず、EUの法体系や法改正には従わなければならない「特殊な立場」となる。

EU側の想定する「移行期間」は2020年12月31日まで

EU理事会は1月29日、ブレグジットをめぐる今後の交渉の中で、「移行期間」についてEU側の方針を示した追加の「交渉指令」をEU27カ国(英国を除く)として採択したと発表した。この結果、EU側で交渉を進める欧州委員会は加盟国から交渉権限(マンデート)を付託され、ブレグジットに伴うビジネス環境の激変を緩和するための移行期間をめぐる英国政府との交渉が本格化することになる。

2018年上半期(1~6月)のEU議長国を務めるブルガリアのエカテリーナ・ザハリエバ副首相兼外相は、移行期間中の英国の立場について、a.EUの全ての法体系を順守するよう(これまで同様)求められる、b.しかし、EU諸機関への参画は認められず、意思決定プロセスにも関与できない、とする「交渉第2段階のガイドライン」(2017年12月18日記事参照)で示された方針をあらためて強調した。

また、具体的な移行期間の期限については、EU側として既に明らかにしているとおり、「2020年12月31日」とした。

英国に義務の履行を求めるも、権利は制限

EUは今回の「交渉指令」の中で、EUとしてこれまでに定められた全ての法体系のみならず、ブレグジット以降(英国は意思決定プロセスに参画していない状態)の法体系の変更についても、移行期間中の英国内での順守を求めている。また、欧州理事会、欧州議会、欧州委員会以外のEU専門機関の決定についても順守するほか、EU司法裁判所(CJEU)の管轄権を含む司法や、規制、予算、統治機構などに関するEUの既存の枠組みに準拠することも求めている。

また、EUが諸外国・地域と締結する通商協定などEUの通商政策についても、移行期間中に英国は順守を求められるとしている。しかし、同時にこれらの通商協定によって設立される当事者間の合同委員会や協議会に、ブレグジット以降の英国は参画できないというのがEU側の立場だとしている。

これらを総合すると、今回のEUの「交渉指令」に従えば、ブレグジット(2019年3月30日午前0時・ブリュッセル時間)以降の英国はEU関税同盟に残留し、EU市場へのアクセス(モノの自由移動)は保障されるが、英国側で懸念がくすぶる人の自由移動(EU側から英国での就労を目的に渡航する労働者を含む)を認めなければならない上、その他の加盟国としての義務は完全に履行しなければならない立場となる。しかも、英国はEUの意思決定プロセスには参画できず、英国を除くEU27カ国が決定した法改正などには従わなければならない。また通商関連では、移行期間中の英国は、関税率から通関手続きの細則に至るまでEUが定めた法令への完全準拠が求められる。この結果、英国は移行期間中、EU域外国との単独の自由貿易協定(FTA)をEUの承認などがない限り、個別に発効させることもできなくなる。

このほか、移行期間中の英国は、EU諸機関への参画は認められず、意思決定プロセスにも関与できないとするのがEUの基本姿勢だ。今回の発表では「ケース・バイ・ケースで例外的にEU諸機関の会合にEU側が英国政府を招くことはあり得る」としつつ、「それらの会合で(英国の)議決権は認めない」としている。

EU側で、今後の移行期間をめぐる交渉権限を付与された欧州委は1月29日、追加「交渉指令」採択を歓迎する声明を発表したが、「(英国側の)『いいとこどり』は認めない」とする従来の基本方針を強調し、移行期間についても2020年12月31日で終了するとして、延長を認めない姿勢だ。また、2021年1月1日をもって双方市民の権利保障についての協定条項を適用開始するとし、市民生活の混乱を回避するとしている。欧州委で英国との交渉の指揮を執るミシェル・バルニエ首席交渉官も「2020年12月31日までにEU・英国に入国した双方市民の権利は保障されるべき」としている。

(前田篤穂)

(EU、英国)

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