EUとASEAN、FTA交渉の再開準備で合意

(EU、ASEAN)

ブリュッセル発

2017年03月16日

 フィリピンのマニラで3月10日に開催された「ASEAN経済相・欧州委通商担当委員(AEM・EU)会合」で、ASEAN加盟国の経済相と欧州委員会のセシリア・マルムストロム委員(通商担当)は、両地域間の自由貿易協定(FTA)交渉の再開に向けた準備作業を開始することで合意した。

<米国のTPP離脱は好機との見方も>

 EUとASEANは2007年に地域間FTA交渉を開始したが、ASEAN加盟国間の経済レベルや市場の開放度の差に加え、ミャンマーの人権問題などが交渉を阻害し、2009年5月に中断した。両地域は、公式には地域間FTAの締結を目指すとしていたものの、EUはASEAN加盟各国と個別にFTA交渉を進める方針に転換していた。

 

 今回のAEM・EU会合で採択された共同宣言では、ASEANとEUの双方がFTA交渉の再開に向けて、「政府高官に対して、同協定の交渉の要素を整理し、2018年に開催予定の次回のAEM・EU会合において報告するよう指示した」ことが明らかになった。

 

 欧州委のマルムストロム委員は共同宣言の発表に当たり、「めまぐるしく変化する国際情勢の中、われわれはアジアに一層の関心を払っている。双方がこの機会を逃さずに、交渉再開の準備に取り掛かることを歓迎する」として、「EUは良い結果をもたらす世界貿易の促進に取り組む」と述べた。米国がASEAN加盟国であるマレーシアやブルネイも参加する環太平洋パートナーシップ(TPP)協定からの離脱を表明(2017年1月23日記事参照)するなど、世界貿易体制に距離を置き始めた状況について、EUにはFTA交渉を進める好機とみる向きもある。今回のEU・ASEANのFTA交渉再開に向けた動きも、こうした文脈で捉えることができそうだ。

 

<「多国間投資裁判所」設立でも意見交換>

 今回の会合ではこのほか、公共調達やeコマース、中小企業を対象とする貿易手続きの簡易化など新たな協力分野において、双方の専門家の会合を開催することで合意。また、投資関連の係争を処理する単一のグローバルな司法機関である「多国間投資裁判所」の設立についても意見交換し、引き続きその可能性を検討することで合意したという。EUはカナダとの包括的経済・貿易協定(CETA)およびベトナムとのFTAにおいて、投資裁判所制度の設立で合意している(2016年7月25日記事参照)。これらの点は、両地域間のFTA交渉の再開と関連して扱われているわけではないが、EUとASEAN以外の国・地域とのFTA交渉に対しても影響が予想される。

 

 なお、EUとASEAN加盟国とのFTAとしては、シンガポール(2013年9月に最終合意)とベトナム(2015年12月に交渉妥結)がある。またEUは、インドネシアおよびフィリピンとFTA交渉を実施しており、ミャンマーとは投資協定の交渉を継続している。タイとは2013年にFTA交渉を開始したが、2014年5月に軍が政権を掌握したことを受けて中断している。

 

(村岡有)

(EU、ASEAN)

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