有料会員制プログラムでEC利用者を増やすアマゾン-楽天は越境サイトを通じ販売を7倍以上に-

(米国)

ニューヨーク発

2017年10月11日

米国では電子商取引(EC)市場が年率2桁台の伸びで拡大している。とりわけ、ネット通販大手のアマゾンは、有料会員プログラム「プライム」を通じて利用者を増やし、国内EC市場シェアが4割に達している。一方で、越境ECの利用も増加傾向にあり、日本企業では楽天が、自社の海外向け販売サイトを通じて米国市場で販売を伸ばしている。

米国EC市場の4割を占めるアマゾン

米商務省によると、2016年のECによる小売売上高は前年比14.9%増の3,897億ドルとなった(2015年は3,392億ドル)。統計調査会社スタティスタ(Statista)が2016年に行ったアンケート調査によると、18歳以上の米国人の88%がインターネットを日常的に利用しており、中でも18~29歳のインターネット利用率は99%、30~49歳でも96%と高く、若い世代が中心となりEC市場の拡大を後押ししているといえる。

市場調査会社コンシューマー・インテリジェンス・リサーチ・パートナーズ(CIRP)によると、米国の代表的なECサイトであるネット通販大手アマゾンは、国内EC市場全体に占めるシェアを2013年の26%から2016年には43%と大きく拡大させ、圧倒的な存在感を示している。その一端を示す現象として、米国ではこれまで商品を購入する際、グーグルで商品を検索して、そこからアマゾンのサイトにアクセスするパターンが主流だったが、現在は直接アマゾンのサイト内で商品を検索し、購入するパターンに変化しているという。

米国EC市場でアマゾンが躍進している要因としては、有料会員プログラム「プライム」が挙げられる。前述のCIRPが実施したアンケート調査(注1)によると、米国における「プライム」の加入者数は8,500万人に達している。米国のアマゾンの利用者全体に占めるプライム会員の比率は63%と、3分の2近くに上るという。これらプライム会員はアマゾンに多額の収益をもたらしており、CIRPによると、プライム会員の平均支出額は年間1,300ドルで、非プライム会員の平均700ドルを大きく上回る。

プライム会員には、追加料金なしで注文から2日以内に商品が届くという配送サービスや、1回の買い物額が35ドル以上の場合、同じく追加料金なしで商品が即日または翌日に届けられる特典(5,000以上の都市が対象)があり、これらがオンラインでの買い物の抵抗感を取り除いているという。さらに顧客を獲得するため、2017年6月から米国市場の約2割を占める低所得者向けの料金プランを開始した。フードスタンプ(低所得者向けの食料配給券)の受給者に対して、プライム会員価格を通常の月額10.99ドルから5.99ドルに引き下げている。

安さやユニークな商品を求め越境ECも拡大

その他の主要ECサイトとして、インターネットオークションサイトのイーベイが挙げられる。イーベイは、出品者と購入者が取引する消費者同士のマーケットプレイスで、ほかでは入手しにくい商品やビンテージ商品が豊富といった点が特徴だ。また、世界最大のハンドメード作品を扱うエッツィ(Etsy)には世界中から売り手が参入。手作りの工芸品やギフト商品、アクセサリーなど4,500万点もの商品を扱うマーケットプレイスとして注目されている。

米国EC市場に占める越境ECの割合についてはデータの制約から把握できないものの、米国の消費者も海外の商品を求める傾向にある。デジタル市場分析会社コムスコア(comScore)が2017年第1四半期に実施した調査(注2)によると、ECサイトを利用して海外の店舗から買い物をした消費者の割合は、2016年の43%から2017年には47%に増えている。同調査によると、消費者が越境ECを利用する理由として、「比較的安い価格で商品を購入できるため」(43%)、「国内にはないユニークな商品が欲しいため」(36%)、「好きなブランドや商品が国内で購入できないため」(34%)が上位に挙がっている。

一方、海外から商品を購入する際に考慮すると点として、「関税その他の経費を含めた合計金額が明記されていること」(77%)、「全ての価格が自国通貨で表示されていること」(76%)、「購入しようとする海外の店舗の知名度」(74%)などが高い割合を示している。

日本のスポーツ用品や化粧品、高級バッグなどが売れ筋

米国アマゾンなどでも日本の商品の取り扱いはみられるものの、日本の越境ECサイトから米国市場に参入している事例として、楽天ECカンパニークロスボーダー・トレーディング課マネジャーの木下晴義氏に、同社の取り組みや課題などについて聞いた(9月27日)。

(問)米国EC市場での販売状況について。

(答)米国へは主に海外向け販売サイト「楽天グローバルマーケット外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます」を通じて行っているが、ここ数年で販売額は大きく伸び、5年前に比べて7倍以上の規模へと成長している。販売額全体に占める米国の割合は約10~15%で、特に円安が進むタイミングで購入額が増える傾向にある。

(問)日本から出品している商品ではどのようなものが人気か。

(答)米国で販売実績の良い商品は、主に日本のスポーツ用品や化粧品、高級バッグなどだ。

(問)越境EC取引に際して、どのような課題があるか。

(答)越境EC向けのBtoC配送サービスはまだ確立していない。多くの国や地域へと送ることができるEMS(国際スピード郵便)が主な配送方法だが、料金や配送スピードに対する多様なニーズに応えられる状況にはなっていないのが現状。これらの課題を克服すべく、2017年5月から楽天市場の商品を独自で海外配送する「楽天グローバルエクスプレス外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます」のサービスを開始した。梱包(こんぽう)や配送業務などを楽天側が代行し、出店者は海外配送業務の手間をかけずに越境ECに取り組める仕組みになっている。また、消費者が2店舗以上から購入する場合、追加料金なしでまとめて配送されることで、より安い配送が可能となる。配送先は現在、米国を含めた12カ国で、配送サービスのメニューは、配送日数が注文後約2週間の「エコノミー配送」と、配送日数が3~4日の「エクスプレス配送」の2種類。配送手段を多様化することで、海外からの利用者を増やしたいと考えている。

(問)日本からの出品に際しての留意点は。

(答)楽天グローバルマーケットでは自動翻訳エンジンを提供しているものの、商品情報をより正確かつ魅力的に伝えるために、手動による翻訳や写真による訴求をお願いしている。また、外国語(英語)でのカスタマーサポートができるかどうかも、販売を伸ばしていく重要な要素といえる。

(注1)市場調査会社CIRPがまとめたレポートは、2017年4~6月にアマゾンで買い物をした500人の米国人を対象に行ったアンケート調査を基に推計したもの。

(注2)米国のオンラインユーザー5,000人が対象。

(樫葉さくら)

(米国)

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