ラサロカルデナス港など3カ所が経済特区に-低開発地域の経済活性化を目指し税制恩典-

(メキシコ)

メキシコ発

2017年11月13日

政府は9月29日、ミチョアカン州およびゲレロ州にまたがるラサロカルデナス港地区、ベラクルス州コアツァコアルコス、チアパス州のプエルト・チアパスの3カ所を経済特区に認定する政令を公布した。これらの特区に企業を設立した場合、設立後10年間の法人税免除をはじめさまざまな恩典が与えられる。既に米国の大手企業などが投資を発表している。

南北の所得格差の解消が狙い

メキシコは工業を主な産業とする北部諸州の所得水準が高く、農業が主な産業の南部諸州は低い。日系企業が多く進出しているのも大部分は中央高原バヒオ地区あるいは北部国境州で、エンリケ・ペニャ・ニエト大統領が「2つのメキシコ」(「エル・エコノミスタ」紙9月29日)と表現する所得格差の解消を目指して、政府は南部の低開発地域の振興を目的に経済特区(ZEE)の枠組みを創設、2016年6月に経済特区法(LFZEE)を公布した。

今回の政令はLFZEEに基づいたもので、(1)ミチョアカン州ラサロカルデナス市からゲレロ州ラ・ウニオン市にまたがる太平洋州のラサロカルデナス港地区、(2)メキシコ湾岸のベラクルス州コアツァコアルコス港一帯、(3)南東部のチアパス州プエルト・チアパス(通称。自治体の名称はタパチュラ市)が経済特区に指定された。なお、それぞれの経済特区には、連邦経済特区開発庁(AFDZEE)が適しているとする産業を指定してはいるものの、それ以外の産業でも企業設立は可能だ。ただし、法人税法第II編第IV章に規定される金融機関には特区の税制恩典が与えられないほか、石油精製や石油精製品の貯蔵・輸送・販売を特区外の顧客向けに行う事業はできない。

企業設立後10年間は法人税を免除

特区に進出した企業に与えられる主な恩典は以下のとおり。

○経済特区内で経済活動を行う恒久的施設(PE)の設立後10年間の法人税免除とその後5年間の半減。

○特区内に法人、支社、支店などを設立後10年間、従業員の健康保険料の50%に相当する額を法人税から減免(法人税が発生する場合)。その後5年間については25%を法人税から減免。なお、健康保険料の納付額が法人税の納付額を上回った場合は差額分の還付が受けられる。

○特区内での財・サービスの販売、あるいは特区外から特区内への財・サービスの販売について、付加価値税(IVA)の免除(特区内から特区外に財を販売する際はIVAが課税)。

○従業員の研修にかかる費用の125%まで損金算入できる(通常の25%増し)。

○特区内への財の輸入に関し、関税の免除(一時輸入扱い、ただし部品・原材料を輸入後60カ月を超えて滞留させる場合は課税対象)。

なお、経済特区の枠組みは輸出向け製造・マキラドーラ・サービス業振興プログラム(IMMEX)とは異なり、全ての企業がメキシコに恒久的施設(PE)が存在すると見なされるため、PEが存在しないと見なされる「マキラドーラオペレーション」(所得税法181条)には該当しない。つまり同法182条に規定されるマキラドーラオペレーションへの特別課税は適用されない。

経済特区に認定された地域は、政府が保有する土地と一般の土地に分かれている。政府保有の土地については工業団地を建設する予定となっており、政府がデベロッパーを選定し工業団地設立後はデベロッパーが政府に土地の賃料を支払う。工業団地を建設するに当たりデベロッパーは土地を購入する必要がないため、工業団地を建設しやすく、また入居者の賃料も抑えて投資をしやすくするという狙いがある。ただし、周辺の電気、下水道、道路などのインフラ整備に関しては政府の援助はないようだ。なおAFDZEEによると、第1フェーズとして今回の3カ所に加えて、オアハカ州のサリナクルスとユカタン州、第2フェーズとしてタバスコ州ドス・ボカス港とカンペチェ州セイバプラヤ港、第3フェーズとしてイダルゴ州とプエブラ州にも経済特区を創設する予定のようだ。

GEやアルセロール・ミタルが投資を発表

主要経済紙「エル・エコノミスタ」(9月28日)によると、2017年だけで経済特区には米国の製紙大手キンバリークラーク、ゼネラル・エレクトリック(GE)などが投資を発表しており、投資総額は10億ドルに上るという。今後も世界各国の企業から計53億ドルの投資が予定されており、1万2,000人の新規雇用創出が見込まれるとしている。

経済特区に指定されている地域には、メキシコ湾に面した石油産業の集積地コアツァコアルコス、中米諸国に近いプエルト・チアパスなどの特色があるが、日本企業が最も関心を持つとみられるのはラサロカルデナス港だ。同港のコンテナ取り扱い能力はマンサニージョ港に次いでメキシコ2位、自動車の取扱量は太平洋岸で最大となっている。また、経済特区法の公布を受けて、ルクセンブルクに本拠を置く製鉄最大手アルセロール・ミタルが今後3年間に100億ドルの拡張投資を行うことを発表している。同社の代表取締役兼最高経営責任者(CEO)のラクシュミー・ミタル氏は「メキシコ進出から25年間たったが、メキシコは投資をするに当たって素晴らしい場所だと感じている。これまでと同様、共に成長していけるよう他の投資家も呼び込みたい」と語った(「エル・フィナンシエロ」紙9月29日)。

課題は治安と人材育成

経済特区のあるミチョアカン州およびゲレロ州、チアパス州、ベラクルス州の課題は治安と人材の育成だ。国立統計地理情報院(INEGI)が7月3日に発表した「規制の質と政府の企業に対する影響に関する調査(ENCRIGE)」では、3万4,681の事業所に対して所在する州の操業環境を安全と感じるか聞いている(図参照)。

図 治安面での操業環境に関する認知度(2016年10~12月)

その結果、操業している州を「安全」と答えた事業所の割合は、チアパス州では全国平均をわずかに上回ったものの、ミチョアカン州、ベラクルス州は平均以下となっている。また、ミチョアカン州は麻薬組織の拠点になっているといわれており、投資の障害になりかねない。さらに人材育成についても、これらの州が工業を主な産業としてこなかったことに対して、全国工業会議所連合会(CONCAMIN)のマヌエル・エレーラ・ベガ会長は「各経済特区は工業プロジェクトに求められる人材を育成、輩出するという大きな挑戦に直面するだろう」と語っている(「エル・フィナンシエロ」紙9月29日)。

(岩田理)

(メキシコ)

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