マハラシュトラ州が労働法を改正、契約労働の規制を緩和

(インド)

ムンバイ発

2017年04月04日

 マハラシュトラ州政府が労働法を改正し、1月5日付で公布した。インドではラジャスタン州やハリヤナ州政府が労働法を雇用者寄りに改正しており、投資環境改善を目指すマハラシュトラ州政府もこうした動きに追随したかたちだ。同州の労務問題に詳しいカイタン(Khaitan)法律事務所の所属弁護士に、改正の影響などについて聞いた(3月13日)。

州法が適用される契約労働者数の基準を緩和

マハラシュトラ州政府は1月5日付で、同州の「2016年契約労働(規制および廃止)法」を公布し、契約労働に関する規制を緩和した。

インドには中央政府が契約労働者の労働条件と福祉の向上を目的に制定した法律として、「1970年契約労働(規制および廃止)法」〔Contract Labour(Regulation and Abolition)Act, 1970:以下、CLA〕がある。各州政府は中央政府の承認を得た上で、これに州独自の修正を加えた州法を公布している。

マハラシュトラ州政府は今回の州法改正で、契約労働法の適用基準である事業所および請負事業者が雇う契約労働者の人数を増やした。具体的には、CLAの適用対象が「20人以上」の事業体であるのに対し、州法ではこれを「50人以上」に緩和した。

事務コストの削減などが可能に

問:契約労働とは。

答:契約労働とは、請負業者が雇用し直接指揮・監督する労働者の労働力を、必要とする使用者が使用する労働形態であり、日本でいう派遣労働や請負労働のことを指す。

問:CLAの内容とは。

答:CLAは、20人以上の契約労働者を雇用する請負事業者に対して、所管政府(注)からの許可取得を義務付けている。日本では派遣労働者を受け入れる使用者側に対して許認可の取得は義務付けられていないが、CLAでは、20人以上の契約労働者を使用する事業所に対し、所管政府への登録を義務付けている。事業所の登録申請には、派遣元である請負業者の詳細、派遣される労働者の最大人数、従事する作業の性質などの詳細を示す必要があり、派遣元などを変更するときには、その都度、当局に届け出を行わねばならない。さらに、請負事業者が労働者派遣の許可を申請する際にも、派遣先である事業所の監督責任者は、当該請負事業者との派遣契約の存在を確認し、CLAへコンプライアンスを約束する証明書を提出しなければならない。

問:今回の新法公布による影響は。

答:新法によりCLAの適用対象が緩和されたことで、20~49人の契約労働者を受け入れる事業所は適用から外れる(20人未満はCLAでも対象外)。台帳管理などの事務コストがなくなるほか、これまでCLAが適用される事業所では、請負事業者を変えたり派遣契約の内容を変更すると、その都度、当局への登録を更新しなければならなかったが(請負事業者が申請する許可についても同じ)、CLAの適用から外れたことにより、こうした煩雑な事務手続きが不要になり、事業状況に合わせて機動的に請負事業者を変更したり派遣契約の内容を変更したりすることが可能となる。

工場法の労働条件は正規と同様に適用

問:注意点は。

答:契約労働者の労働条件についてはCLAが適用されないとしても、工場法で定める労働条件が契約労働者に対しても正規労働者と同様に適用されることに注意しなければならない。マハラシュトラ州政府は、工場法を改正して適用基準の引き上げを予定しているものの、現行では20人以上の従業員を雇用する事業所に対して適用されている(製造過程で動力を使用する場合)。

また、CLAの適用が免除されることにより、社内外の法規制を順守するためのコンプライアンス・コストがなくなる半面、CLAに規定されている請負業者と使用者である事業所との責任分担が不明確となるため、後々のトラブルを避けるためにも、今後は契約で賃金、手当、賞与などの支払い義務、事故や損害が生じた場合の補償義務、福利厚生の提供義務などについて、詳細を定めておく必要がある。

(注)インド国鉄、空港などの所管政府は中央政府だが、民間の事業所は各州の労働局が登録先になる。

(若林康平、朝倉啓介)

(インド)

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