医療分野の規制に関する日伯官民合同セミナー開催−少子高齢化でニーズ高まる日本製機器や医薬品−

(日本、ブラジル)

サンパウロ事務所

2014年08月14日

ジェトロは8月2日、安倍晋三首相のブラジル訪問に合わせ、サンパウロで医薬品医療機器総合機構(PMDA)、ブラジル国家衛生監督庁(ANVISA)と共催で「日ブラジル医療分野規制に関するセミナー」を開催した。高齢化が進むブラジルでは、医療産業分野へのニーズが高まっており、同分野では初めての日伯官民合同の公開セミナーとなった。

<質の高い医療へのニーズ高まる>
ブラジル地理統計院(IBGE)によると、2013年のブラジルの出生率は1.77で、2034年には1.5まで下がり、少子化が進展する一方、平均寿命が伸びて高齢化も進む。人口は2042年には2億2,800万人に達すると予測されている。また、ジェトゥリオ・バルガス財団(FGV)によると、2003年から2011年の間に中間層(世帯収入が月額約7万5,000〜32万円と定義)は約4,000万人増加している。少子化・高齢化の進展に加え、国民の所得水準が向上して生活の質に対する意識が高まったこともあり、質の高い医療へのニーズが高まっている。

<医療分野での審査の迅速化が課題>
しかし、規制当局の医療機器の登録審査にかかる時間の長さは日系企業の進出に当たって大きな弊害の1つになっている。例えば一部の医療機器メーカーは、医療機器の登録審査前に、ANVISAによる製造工場の品質管理システム(GMP)監査を受けることになっている。外国の製造工場も対象だが、ANVISAの人員不足からGMP監査が始まるまでに1年以上待たなければならず、前後の準備と書類審査時間を考慮すると、ブラジルで医療機器を販売するには申請から登録完了まで2〜3年かかる。

こうした背景を受けて政府レベルでは、a.2013年9月2日に岸田文雄外相がブラジルのフィゲイレド外相と会談し、医療機器や医薬品の販売拡大に向けてブラジル側の承認手続きを迅速化するための協議機関の設置を要求、b.同年10月、サンパウロで開催された日伯貿易投資促進産業協力合同委員会で、石黒憲彦経済産業審議官がシェーファー開発商工次官と会談し、ANVISAの医療機器承認審査の迅速化を要請、c.2014年2月にはPMDAの近藤達也理事長がANVISAのジルセウ・バルバーノ長官と会談し、薬局方、GMP監査の迅速化といった協力活動に関する計画を作成することで合意、などの協議がなされてきた。

今回の安倍首相のブラジル訪問に際し、初めて日伯官民合同の公開セミナーが実施される運びとなり、安倍首相、バルバーノ長官をはじめ両国の政府関係者、企業や報道関係者など350人以上が参加した。

セミナー開催前にはジェトロの石毛博行理事長、ANVISAのバルバーノ長官、PMDAの近藤理事長による会談が行われ、バルバーノ長官は、ブラジルにおいてPMDA出席の下でセミナーが開催できることを歓迎するとともに、このような場を提供したジェトロへの謝辞を述べ、両国の医療機器、医薬品など薬事分野の発展に共に協力することで一致した。

<医療・保健分野での協力推進で合意>
セミナー開催前日の8月1日、安倍首相はブラジルのジルマ・ルセフ大統領と首脳会談を行い(2014年8月7日記事参照)、その中で医療・保健分野での協力推進に合意した。

セミナーでは、ANVISAの長官のみならず医療機器部門マネジャーや生物製剤部門マネジャーらも「医療機器・医薬品の審査効率化」と題した講演を行い、多くのセッションが設けられた。

日本側からは、日本製薬団体連合会の野木森雅郁会長、日本医療機器産業連合会の中尾浩治会長らが講演を行い、また、新薬の承認審査に長い時間を要する「ドラッグ・ラグ」問題に対してPMDAがどのように取り組んできたか、その経験が紹介された。PMDAの近藤理事長は、日本において新薬の通常審査品目と優先審査品目の審査期間が2008年からの6年間で約半分に短縮されたことを紹介するとともに、今後、PMDAとANVISAがこの問題で協力していくことを提案した。

バルバーノ長官からは、今後も日本の協力を得ながら審査の迅速化と効率化に向けて両国で協力し、共同活動を開始したい旨の発言があった。

(辻本希世)

(ブラジル・日本)

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