知財関連法が大幅改正、10月から施行−ロシア知的財産権セミナー(1)−

(ロシア)

欧州ロシアCIS課

2014年08月04日

ロシアで10月1日、知的財産権に関する民法第4部の改正法が発効する。第4部は2008年に、それまでの個別法による規定が一体化されて成立した。その大幅改正は、それ以降に積み上げられた実務上の経験も踏まえたものだ。7月9日に東京で開催された「ロシア知的財産セミナー」(主催:特許庁、ジェトロ)では、「民法改正と模倣品対策の最新動向」と題して、専門家が現状と変更後の見通しなどを解説した。3回に分けて報告する。1回目は民法第4部の改正の概要と特許関連について。

<国際情勢の変化にも対応し大幅改正>
セミナーではまず、知的財産権を規定する民法第4部の概略について、知的財産権分野を専門とするロシアの法律事務所ゴロジスキー・アンド・パートナーズのウラジミル・ビリューリン・シニアパートナーが解説した。概要は以下のとおり。

2014年3月にプーチン大統領が民法改正法案に署名し、同法が成立した。10月1日から施行となるが、これによりロシアの知的財産権分野で大きな変更が生じる。著作権および著作隣接権、特許権、意匠権、商標権などの知的財産分野は民法第4部に規定される。知的財産権は経済活動のあらゆる分野に関係する。現在、日本とロシアの経済関係は急激に拡大しており、両国経済活動の緊密化の中で知的財産権の保護が大きな課題になることは間違いない。

ロシア政府は知的財産分野の権利保護強化に関心を持っている。2008年に大きな法改正があり(注)、その後も改善の議論が続いた。その流れの中で、2012年にメドベージェフ大統領(当時)が知的財産権を含む民法の大幅な改正法案を提出、これが2014年3月に成立した。

この時期に民法改正を行った理由は、旧法で散見された不備な点に対処するためだ。知的財産分野は経済に大きく関連しており、改正を避けて通ることはできない。さらに、国際的な情勢の変化もある。ロシアのWTO加盟、商標権に関するするシンガポール条約の発効とロシアの批准、ロシア、ベラルーシ、カザフスタンで構成する「関税同盟」の成立など、ロシアの知的財産権も国際的な法制度の枠組みの中で動くこととなった。

今回改正された民法第4部に含まれる関連規定は、2008年の改正時点では個別法として定められていた。今回の改正では、これを民法に統合すると同時に条文にも大幅な変更が加えられた。328の条文のうち約半数の169に変更があり、新しい条文も7つ加えられた。

<時代に合わせた知財権の概念を導入>
変更点を具体的にみると、第69章の総則部分については、共同所有に関する規定が変更になった。これまでは共同所有の場合、共同所有者双方が合意した場合にのみ権利の移転(譲渡、ライセンス供与)を行うことができたが、今後は共同所有者それぞれが処分について他の所有者と協議することで、排他的権利の処分あるいは保護が可能となる。

著作権についても変更があった。改正後は連邦知的財産局(ロスパテント)への登録は任意となる。また、登録手続きも簡素化される。例えば、シンガポール条約に規定されている場合を除き、現在必要とされる契約書の添付は不要となり、登録に伴う「申請」のみでよくなる。これまではロスパテント側が契約書の不備を理由に登録を拒否することがあったが、今後はそのリスクがなくなるということだ。

他方、ライセンス供与における無償契約は禁止になった。これまではライセンスの無償供与も可能だったが、税務行政上の問題が生じてきたためだ。税務署が、実際には有償だがそれをカモフラージュするための無償契約と判断し、市場価格を算定基準にロイヤルティーへの課税のほか追徴金を課す場合がある。ライセンス無償供与禁止の背景には、これら法制度間の不一致を避けるという意味合いがある。

著作権の新しい対象物として、インターネット上のウェブサイトが登場した。ウェブサイトは民法上、他の編集著作物(百科辞典、データベースなど)と同等のものと判断される。それに伴い、「再伝達権」が規定された。制作者が制作物を録音・録画し、それを(インターネットなどを通じて)再伝達しようとする場合、そこで新たな権利が生ずる。また、コンテンツを放送・放映する企業には賃貸権が新たに加わった。

<特許関連の変更は実務面が主>
民法第4部の大幅な改正にもかかわらず、特許法の関連部分にはそれほど大きな変更はない。安定的な経済活動を企業関係者が求めたこと、WTO加盟に象徴されるロシア国内法の国際的なハーモナイゼーションなどの理由から、2008年の民法改正時から既に現在につながる改正の準備作業が進められていたためだ。また、ロシア政府が技術革新を推進していることも背景の1つにある。

産業分野を含め、当該分野で活動する企業の権利保護に関わる専門家の間で、多くの議論がなされてきた。司法や特許関係者の見解も多く集められ、その結果、変更が行われて成立した。特許に関しては、改正点は必ずしも多くないが、実務の根本の部分で多くの変革をもたらす改正だ。重要な変更点は次のとおり。

第1の重要な変更点は、民法第1350条に関するものだ。ここで規定されるのは、発明の対象となるもの、あるいは発明として認められることの定義だが、実はこれらの点は今まで法律上は明確な定義がなかった。今回の改正で、保護の対象となる発明が「製品またはプロセスに関する技術的解決手段」と規定された。これと同時に、発明の対象物と見なされないものの一覧がオープンにされた。

第2に、特許の付与に当たって「十分な開示」がなされていることが要件の1つとして明示されたことだ。「十分な開示」はこれまでも審査過程で実務上の要件となってはいたが、特許認証のための独立した項目としては法令には明記されていなかった。実用新案についても、同様に要件の1つとして明記された。

第3の変更点は、発明および実用新案の特許延長期限に関して。発明の有効期間は20年で、医薬品、殺虫剤、農薬については5年間の延長が可能だが、今回の改正でその期間延長は製品に限られ、開発・製造方法は含まれなくなった点に留意する必要がある。その一方、実用新案の有効期限は現在の13年から10年に短縮される。

加えて、実用新案は現在、a.申告のみでの取得が可能、b.明らかに新規でない場合でも(特許の)付与直後に効力が発生する、など実務上の自由度が大きい。このため、発明の特許よりも短期間でかつ安価な取得が可能だが、今後はこのようメリットは少なくなるだろう。全般的に、実用新案権は縮小される方向にある。実用新案は発明に比べ取得が容易だったため乱用される傾向があり、それを是正するための措置といえる。

特許審査も大きな変更はないが、発明審査においては出願人および第三者への通知を目的とした審査結果の公表、出願者の発意による補正の回数制限が導入され、実用新案審査には方式審査のほか、実体審査が加わった。

第4点は、発明出願の公開後の第三者による上申書の提出が認められたことだ。これは、必ずしも特許申請に対する対抗手段ということではない。ロスパテントは審査で上申書の内容を検討するが、検討結果を上申書の提出者に開示するわけではない。

第5点は、期間計算の方法の変更だ。特許出願については、ロスパテントの通知に対する応答や出願が否認された場合の上訴の期限を、これまで通知の受領日から計算していたが、ロスパテントが通知を送付した日からに変更になる。これに伴い、郵便事情を考慮し、応答期限は現行の2ヵ月から3ヵ月に、上訴期限は同じく6ヵ月から7ヵ月に延長される。

(注)著作権、特許権、工業意匠権、商標権などの関連法は、1990年代前半にそれぞれ個別法として制定された。2008年1月、これらを統合するかたちで民法第4部が施行され、これら関連法は廃止となった。

(梅津哲也)

(ロシア)

意匠の審査基準や商標出願条件が変更に−ロシア知的財産権セミナー(2)−
模倣品などの権利侵害、訴訟で罰金や商品の廃棄が可能−ロシア知的財産権セミナー(3)−

ビジネス短信 53dae8e71d0d8