中小企業支援を拡充、労働生産性の向上促す−2014年度予算案(1)−

(シンガポール)

シンガポール事務所

2014年03月10日

2014年度(2014年4月〜2015年3月)政府予算案は、中小企業を中心に研究開発(R&D)や情報通信技術(ICT)導入などによる労働生産性向上に向けた支援策を拡充し、労働生産性の向上による経済成長モデルへの転換を一層促す内容となった。また、高齢化に向けた医療補助の拡大など、社会セーフティーネットの充実も図っている。新年度政府予算案について、2回に分けて報告する。

添付ファイル: 資料PDFファイル( B)

<質の成長と公平な社会の実現を目指す>
2014年度政府予算案(2月21日発表)は、2010年から進めている労働生産性向上による経済成長モデルへの転換に向けた企業努力を一層促すとともに、医療費など社会セーフティーネットのさらなる拡充を図る内容となった。ターマン・シャンムガラトナム副首相兼財務相は予算案説明の冒頭、「(シンガポールの)経済および社会戦略が新たな方向に向かっている」と指摘。第1に、国民の所得向上を支えるための「質の成長」を達成し、第2に「公平で、平等な社会の実現」を目指す方針を強調した。

政府は2010年2月、向こう10年の労働生産性を年率2〜3%引き上げる一方、外国人労働者を全労働者の3分の1に抑制するという官民合同の経済戦略委員会(ESC)の国家経済戦略提言を受け入れて以来、生産性引き上げによる国民所得の向上という経済成長モデルへの転換を進めている(2010年2月10日記事参照)

<労働生産性の向上支援:中小企業中心に拡大>
2014年度予算案では新しい経済成長モデルに基づき、企業の労働生産性向上に向けた取り組みの支援策の拡充が焦点の1つとなった。発表によると、この支援策は、(1)技術革新に投資する企業への支援拡大、(2)ICT導入の支援強化、(3)企業の事業拡大への投資支援、(4)国際展開への支援、(5)建設業界の労働生産性向上の課題解決、の5つを主な柱としている。

同予算案では、既存の支援スキームの延長や内容の拡充を図るとともに、特に中小企業への支援を手厚くしている(表参照)。これら支援策のうち、2010年度予算で導入された「生産性・技術革新クレジット(PIC)スキーム」は、a.ITやオートメーション機器の購入・リース、b.従業員の研修、c.知的財産の登記、d.知的財産の取得、e.R&D、f.デザイン活動、の6項目の適格支出の400%を課税標準金額から控除できるというもの〔1項目当たりの上限額:40万シンガポール・ドル(約3,240万円、Sドル、1Sドル=約81円)〕。PICスキームは2015賦課年度が期限だったが、今回2018賦課年度へと3年間延長された。中小企業(注1)に対しては新たに「PICプラス」スキームを導入し、PIC適格支出の上限を40万Sドルから60万Sドルに引き上げた。さらに、中小企業を対象としたICT導入支援を拡大するなど、中小企業支援を強化している。

2014年度政府予算案で発表された労働生産性向上のための主な企業支援策の拡充内容

<建設分野:外国人雇用税の追加引き上げへ>
また、新年度予算案では外国人労働力への依存度が高い建設業界に焦点を当て、生産性向上に向けた一層の努力を促している。まず、国土土地売却プログラム(GLS)で放出された一部の土地については、建設に必要な人員を減らすことができるプレハブ工法やユニットバスの設置など労働生産性を向上するための技術導入を義務付けるとともに、GLS以外の用地もそうした技術導入のためのインセンティブを設ける予定だ。詳細については、国家開発省が3月上旬に発表する。

さらに、建設業界の外国人労働者の依存を抑制するために、低技能外国人労働者「ワーク・パミット(WP)保持者」の雇用税をさらに引き上げる。同国では外国人労働者への依存を抑制するため2010年から、低・中技能外国人労働者の雇用税を段階的に引き上げているほか、1社当たりの雇用上限の引き下げを行っている。前回2013年度予算で、2014〜2015年に全業種にわたって雇用税の引き上げが決まっている。これに加え今回の予算案では、建設業界の低技能外国人労働者の雇用税が2016年7月から、700Sドルとさらなる引き上げが発表された(添付資料参照)。一方で、技術を習得した建設と海事部門の外国人労働者については、雇用期間を最長18年間から22年間へと延長する。

今回の予算案では、建設業界を除く業界の外国人労働者に対する追加規制は発表されなかった。同予算案によると、外国人労働者の雇用規制強化の結果、建設業界を除く外国人労働者の増加は2011年の6万200人から、2013年には1万6,800人へと縮小している(注2)。同財務相は建設以外の業界について、2016年以降に雇用税引き上げが必要か判断するため、引き続き外国人労働者の伸びを注視していくとしている。

(注1)シンガポール政府が定義する「中小企業」は、年間売上高が1億Sドル以下、または従業員が200人未満の企業。シンガポール登記企業の99%が「中小企業」に相当する。
(注2)人材省統計によると、2013年末時点の外国人労働者は132万1,600人。

(本田智津絵)

(シンガポール)

企業の社会保障費拠出率を引き上げ−2014年度予算案(2)−

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