管理職には年間労働日数によるみなし時間制も適用−「管理職の取り扱い」セミナー(2)−

(フランス)

パリ事務所

2013年10月25日

ジェトロが9月25日に在フランス日系企業を対象に開催した、「管理職の取り扱い」に関する労務セミナー報告の後編。今回は管理職の労働時間と契約解消について。

<定額協定でみなし時間制の導入が可能に>
残業代を見越した定額の給与を定める定額協定を、管理職との間に締結することができる。協定は一般的に管理職に適用するが、営業など一部の非管理職でも適用できる。管理職は、a.企業の経営方針に関する会議に出席する経営管理職、b.労働時間を自分の職務内容で自主管理する自主管理職、c.仕事内容から一般の労働時間に適応できる内勤管理職の3タイプに分けられ、タイプにより定額協定の適用が異なる。経営管理職には労働時間に関する法律が適用されず、残業代の支払いは生じない。

定額協定は、時間基準(週・月・年単位)と、年間での日数基準がある(表1、表2参照)。締結するには、本人同意と書面化が必要だ。年間の定額協定は、時間、日数にかかわらず、労働協約に年間定額協定の可能性が明記されていることが前提となる。定額制導入に当たっては、事前に企業委員会に諮問しなければならない。日本のみなし時間制(裁量労働制)に類似する年間定日数は、労働法で最高218日と定められているが、労働協約によって別の日数が定められている場合もある(例:輸出入の労働協約は214日)。年間の日数を超えなければ、労働時間に関する規制は1日の最低休息時間(連続11時間)と週休だけだ。ただし、最低でも年に1回は労使の個別面談により、運用実績を話し合う義務がある。年間時間定額の年間労働時間数は、労働協約で定められている時間数とする。時間数による定額協定の場合、規定した労働時間を超えた労働に対しては残業代を支払う義務がある。

表1定額協定の適用条件
表2定額協定における労働時間諸規定に関する法律の適用

<労使合意による契約解消が増加>
管理職に限らず、全ての従業員の契約解消には以下の方法がある(注1)。

○辞職
従業員側からの自由、真摯(しんし)かつ明確な意思表示が必要となる。口頭ではなく、辞職届を入手する。辞職届がないと、後から不当解雇とされる場合がある。

○人的理由による解雇
人的理由による解雇は、過失と過失以外の理由に大きく分けられる。私生活上の問題を理由として解雇することは禁止されている。ただし、運転手が運転免許証を剥奪された場合や、私生活における薬物乱用により業務に影響が出る場合などは認められる。不和は解雇理由とはならない。不和に至った理由を解明し、その理由により解雇の可能性を探る。過失以外の代表的な理由は以下のとおり。

・業績不足:客観的かつ具体的な根拠が必要となる。例えば、営業担当者10人のうち、9人の成績が100で、1人だけ50の成績が2〜3年続いた場合は、客観的な根拠となる。目標達成がなされていなくても、会社全体の業績低下、世界的な不況など外的原因がある場合は本人の責任とはならない。
・長期欠勤:健康状態による差別は禁止されているので、病気は解雇の理由とはならない。ただし、病気を理由とする長期欠勤により、企業運営に支障が生じていることを証明できれば、解雇の正当な理由となる。

○労使合意による契約解消(労働法:L1237−12〜L1237−16)
労使間で話し合って、契約終了の条件を合意し、当局の承認を受ける契約解消のこと。方法が比較的簡単、かつ時間がかからないため、利用する企業が増えている。辞職ではないので、当該従業員は失業保険の受給資格を持つ。手続きは下記の3段階を踏む。

(1)労使の会合
契約終了日や終了手当などの終了条件を話し合うための会合を最低でも1回は持つ。従業員側は、第三者に会合に立ち会ってもらう権利を有する。会社内に従業員組織(従業員代表、企業委員会、組合支部)がある場合には当該組織の代表者、組織がない場合には行政府が作成したリストから人選する。従業員側に立ち会いがある場合に限って、雇用主も人事部長など企業内従業員(50人未満の企業)、もしくは経営者団体からの人選による立ち会いを受ける権利を持つ。

(2)合意書の作成
合意書(下記ウェブサイトからダウンロード可能)に、契約終了予定日、終了手当額(法定/労働協約の解雇手当を下回らないこと)、取り消し権(合意書サイン後、双方は15日間、合意書を取り消す権利を持つ)を明記する。用紙は、無期限契約者用と保護従業員(従業員代表など、注2)用では異なる。有期限契約者とは、合意による契約解消はできない。
無期限契約者用
保護従業員用

(3)契約終了承認の申請
取り消し可能期間が終了後、企業・競争・消費・労働・雇用地方局(DIRECCTE)に承認申請を行う。同局は15日以内に回答することになっているが、回答がない場合には承認されたものと見なされる。契約終了は承認の翌日となるが、もっと後の月日で合意することも可能だ。保護従業員の場合は、労働監督官に申請し、書面での回答を得る。

合意による契約終了であっても、契約終了後に裁判を起こす権利はある。最近の傾向として、合意による契約終了をした後にさらに示談をするケースがある。示談は民法(2044条以下)で規定されており、発生した紛争を相互に譲歩して解決するためのものだ。示談内容は書面で交わし、最終判決と同じ効力を持つ。示談の日付は、契約終了以降でないと無効となる。

(注1)契約解消については、ジェトロの調査レポート(フランスの「人的理由による解雇」と「労使合意による契約解消」について)も参照のこと。
(注2)保護従業員とは従業員代表や企業委員会などの従業員の代表者で、その役割を発揮するための措置があり、その1つが地位を保つための解雇に対する保護だ。解雇や懲戒処分の場合、労働監督官の許可が必要となり、他の従業員より保護されている。

(後藤尚美)

(フランス)

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