利用対象は「国内自動車組み立て用」とタイ側−JTEPAを利用した自動車部品輸入(2)−

(タイ、日本)

バンコク事務所

2013年07月24日

タイは国内および第三国向け自動車輸出拠点だ。さらに、自動車組立工場向けノックダウン(KD)部品供給拠点としての顔も持つ。タイ政府は、自動車部品の日タイ経済連携協定(JTEPA)利用は、「完成自動車に組み入れる用途」のみと主張する。しかし企業側は、JTEPA条文で「利用用途は限定されていない」と反論し、双方の解釈が異なる。日系産業界は、2013年秋にも開催される「ビジネス環境整備小委員会」の場でこれらの問題を提起し、早期解決を目指す。連載の後編。

<輸出用KD部品は対象外とタイ側は解釈>
タイはピックアップトラックやエコカーに代表される小型車の分野で、国内のみならず第三国向け自動車輸出拠点としての地位を確立した。実際、2012年のタイ自動車生産台数245万台のうち102万台を輸出に振り向けている。さらに、タイは周辺国を中心に自動車組立工場向けKD部品供給拠点としての機能も有する。タイ工業連盟(FTI)自動車部会によると、102万台に上る完成車輸出金額は4,901億3,500万ドルで、KD用部品として輸出されたエンジン、組み立て部品、交換部品などの輸出金額は2,196億8,200万ドルと、完成車輸出金額の45%に上る。

通常、自動車部品企業が中間財・部品を輸入した場合、加工した上で自動車組立企業に納入される。自動車組立企業は同部品を主に、(1)自社で完成自動車に組み入れる用途、(2)KDキットにして第三国組立工場に輸出する用途に用いる。しかし、今回のJTEPAについて、工業省工業経済局(OIE)および税関は、後者は「適用対象外」との見解を示している。その場合、「国内向け用」または「輸出向け用」部品とで数量管理が必要となるが、a.発注時点と実際とで数量が変わる可能性が高く、完全一致は難しいこと、b.「国内組み立て用部品」として免税で納品したものでも、自動車企業が需要の変動に応じて「輸出用KD部品」として使う可能性が考えられるなど、部品企業の管理が及ばない部分でリスクが発生する可能性がある。

<日系企業は「部品の用途は限定されず」と反論>
日系企業側は、JTEPA条文で「利用用途は限定されていないはず」と主張する。連載の1回目で紹介したJTEPA条文では、自動車組立企業自らが輸入する場合、同部品は自動車組み立てに使うことが明記されている一方、自動車部品企業が輸入する場合、「自動車製造企業向けに出荷する(to be delivered to manufacturers of such motor vehicles)」ことのみが記載されており、自動車製造企業は、(1)国内組み立て向けに使用、(2)輸出用KD部品向けに使用、などの用途については限定されていないようにも読める。ただし、OIEは「2国間条約に記載がなくとも、交渉過程の議事録に協議記録が残っているはず」と主張している。「輸出用KD部品は対象外」とするタイ政府の見解を知らずに「国内向け」「輸出用KD向け」両方でこのスキームを利用している企業がかなりある可能性もあり、この問題の解決が長期化すれば、広範囲に影響が及ぶ懸念もある。

産業界は、2013年秋にも開かれるJTEPA関連の「ビジネス環境整備小委員会」の場でこれらの問題を提起、早期解決を目指す方針だ。

(助川成也)

(タイ・日本)

2次以下の下請け企業は協定の対象外との解釈も−JTEPAを利用した自動車部品輸入(1)−

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