中小企業の参入促進を図る−欧州委、公共調達指令改正案を提案−

(EU)

欧州ロシアCIS課

2012年01月19日

欧州委員会は2011年12月20日、公共調達指令の改正案を発表した。中小企業の参入を促すため、手続きの簡素化などを図る。また、早ければ14年6月末までに調達の電子化を調達機関に義務付ける。改正案は今後、EU閣僚理事会と欧州議会で議論され、12年末までの採択を目指す。

<成長戦略でも重要な位置付け>
欧州委の発表によると、EUでの公共調達規模はGDPの18%に上るが、このうちEU官報で公示されるのは全体の19%にすぎない。それでも公示が義務付けられている調達だけで、4,200億ユーロに上る(09年の実績)。従って、公共調達による経済活性化に対する期待は大きい。成長戦略「欧州2020」でも重要と位置付けられており、欧州委が11年4月に発表した単一市場法案では、12年末までの実施を目指す12の優先項目の1つとして、公共調達制度の改革が挙げられた(2011年4月14日記事参照)

欧州債務危機の影響で各国が緊縮財政を迫られる現状では、公共調達の拡大は見込めない。しかし、予算が限られているからこそ、より効率的な調達が求められているともいえる。効率性を高め政府予算の有効活用を図るとともに、環境保護や社会目的の達成にも寄与するよう、欧州委は現行の公共調達の現代化に向けた指令改正案を提示した。

<発注ロットの分割や入札手続きの簡素化などを提案>
改正案によると、調達機関と入札者との交渉の余地を大幅に認める。これにより、調達機関がより柔軟に、自らのニーズに沿った調達を行えるようにする。ただし、個別交渉を認めることは、透明性、公平性の担保などの観点から危険をはらむ。そこで、リスク回避を担保する方策として、加盟国に独立の監視機関の設置を義務付けている。

改正案は特に中小企業の参入促進を強調している。具体的な対応策として、例えば書類提出義務の軽減を提案している。これまで競争参加資格を満たしていることを書面で事前に証明する必要があったが、その証明は自己宣言だけで足りるとし、最終的に落札した企業に対してだけ、書類提出を求めることにする。また、過去4年以内に同じ調達機関に提出している書類については、再提出を求めない。

入札の発注ロットを複数に分割することも推奨している。小規模な契約なら中小企業も参入しやすくなり、また参入機会も増えるためだ。調達機関は分割を義務付けられるわけではないが、分割しないことについての説明責任を負う。

中小企業向けの措置としてはこのほかに、競争参加資格として設定できる条件を限定、列挙するとともに、しばしば参加の障害になる年間売上高の要件については、原則として落札想定価格の3倍以内にとどめるとした。下請け業者への直接支払いもできるようにする。

提案には、指令の実施期限(早ければ14年6月末)から遅くとも2年以内に、調達手続きの完全電子化を義務付けることなども含まれている。これにより、応札書類の電子的提出も認められるようになる。

環境、社会目的などの推進に関連して注目されるのは、最低価格入札での落札基準について、ライフサイクルコストによっても落札を決められるとしたことだ。例えば価格ではなくライフサイクルコストで落札すると設定し、リサイクルコストや温室効果ガスの排出コストなどを、数値化される限りで考慮できる。他方、ほかの目的の推進のために調達が利用されることを懸念する産業界の意見に配慮し、環境・社会関連の要件を設定する場合には、企業全体について環境・社会要件を設定することはできず、当該調達契約に関連する部分に限って設定できることにした。

なお、サービスのコンセッションについては、適用されるEU規制が存在しなかったこともあり、欧州委は今回、コンセッション方式に適用される指令も併せて提案した。

<中小企業関係者はおおむね歓迎>
この改正案は、現行指令の改正について関係者とのコンサルテーションを行ってきた結果を踏まえたもので、関係者もおおむね歓迎している。例えば、中小企業の業界団体UEAPMEは、発注ロットの細分化、競争参加資格の売上高要件、自己宣言の導入など自らが主張してきた措置が採用されたことを受けて、中小企業の参入を促進する提案が含まれていると評価(PDF)している。

他方、欧州の産業団体ビジネスヨーロッパは、そもそも問題は現行指令が十分に加盟国内で実施されていないことにあり、指令の見直しは不要として、改正に慎重な姿勢を示した。特に、交渉の導入には直接言及していないものの透明性確保の重要性を強調し、透明性を阻害するような簡素化に懸念(PDF)を示している。交渉による調達プロセスのブラックボックス化については、UEAPMEも懸念を表明している。

<外国企業の落札は限定的>
EUが単一市場強化の重点分野の1つとして公共調達市場の改革を目指す背景には、公共調達市場はまだ分断されており、EUルールに従って行われた調達でも、国外からの調達は1.6%、国内の外資企業からの調達も11.4%と、多くが国内企業によって落札されているという現状がある〔06〜09年の実績、指令改正の影響評価(PDF)〕。EUは中国の公共調達の閉鎖性などの問題点を指摘しているが、実際にはEU域内の自由化さえさほど進んでいない。今回の指令改正案は、こうした矛盾の解消に向け、公共調達分野での欧州単一市場の実現に取り組むものだ(「PublicServiceEurope.com」)。

欧州委の提案は、今後加盟国で構成されるEU閣僚理事会と欧州議会で議論され、12年末までの採択を目指す。予定どおり12年末までに採択されれば、加盟国は14年6月末までに指令を実施しなければならない。ただし、ビジネスヨーロッパが慎重な姿勢を示しているように、公共調達の改革をめぐっては意見の違いもあり、また欧州の経済情勢も悪化していることから、議論が順調に進むかは未知数だ。

(牧野直史)

(EU)

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