政府、IMFとEUに金融支援を要請−フォリント安を受け踏み切る−

＜外資系銀行にダブルパンチ＞
国内には、地元資本のOTP銀行のほか、K＆H（ベルギー系）、MKB（ドイツ系）、エアステバンク（オーストリア系）、CIB（イタリア系）、ライフファイゼンバンクインターナショナル（オーストリア系）、ウニクレディト（イタリア系）など欧州系の銀行が多数ある。このうち、CIBの親会社インテッサ・サンパオロ、ウニクレジット、MKBの親会社バイエリッシャ・ランデスバンク、K＆Hの親会社KBCなどは、保有する国債価格が値下がりするなど欧州債務危機の影響を受けている。

こうした状況に拍車を掛けたのが、政府が2011年9月に導入した外貨建て住宅ローン一括繰り上げ返済に関する法律だ。これは11年6月に導入した固定為替レートによるローン返済をさらに推し進めたもので、スイス・フラン（外貨）建てローンから国民を救済するため策定された。6月の施策は、為替レートを固定し、実際の支払い分との差額を単にリスケ（返済猶予）するものだったが、9月の施策では銀行に負担を求めた。

住宅ローン返済の場合は1スイス・フラン＝180フォリント（1スイス・フラン＝約84円）にレートを固定し、実際の交換レートとの差額から生じる不足額は全額銀行側の負担とした。「多くの外貨建てローン契約が結ばれた数年前は、1スイス・フラン＝160フォリント前後だった。外資系銀行はフォリント安で大きな利益を得た。そのため、債務者は180フォリントまでのコストを負担し、それ以上は銀行が負担する。これによって両者が負担を分担する」というのが政府の基本的な理念だった。政府はこうした救済策を利用して、20万人ほどの一括返済を見込んでおり、銀行の損失は2,000億〜3,000億フォリント（1フォリント＝約0.34円）とみられていた。

11年10月の時点で、首相府の報道官は「われわれが欧州債務危機から学んだことは2つ。1つは国の債務をこれからも削減しなくてはならないということ、もう1つはできるだけ多くの国民を外貨建てローン問題から救済すること」と述べていた。それだけ外貨建てローンの問題は政府にとっても大きな問題になっている。

＜フォリント安は予算にも影響＞
しかし、欧州債務危機の問題とこうした政府の施策の導入時期が重なり、フォリント相場は9月上旬の1ユーロ＝270フォリント台からじわじわとフォリント安が進み、11月14日には1ユーロ＝315.96フォリントになった。

フォリント安は、12年の予算編成にも影響を与えている。予算案提出時の換算レートは1ユーロ＝268.5ユーロだった。マトルチ国家経済相によると、もし1ユーロ＝300フォリントになった場合は、目標とする財政赤字幅（GDP比2.5％）に収めるには1,000億フォリント不足する、という。12年予算には、金利支払い330億フォリント、年金支払い230億フォリント、IMFスタンドバイクレジット債務支払い750億フォリント、国際機関への負担金40億フォリント、EUへの負担金320億フォリントが含まれる。

＜投資者に対する安全性確保が目的と強調＞
政府はこれまでハンガリー流を貫き、外部機関からの指示に基づく変革を嫌ってきた。しかし、フォリント安に歯止めをかけられなかった以上、国債入札などで思わしくない結果が続き、市場から資金を調達するのが難しくなった。このため国家経済省は11月18日、IMF、EUと協議すると発表した。11月21日、IMFはハンガリー政府から金融支援の要請を受けたこと、同国政府がEUに対しても同様の要請をしたことを明らかにしている。

国家経済省は「The new IMF−EU agreement will boost growth」と題した11月18日の声明で、「ハンガリー経済は市場から資金を調達してきた。他者の好意に甘えることはなかった。しかし、回復期は今や終わり、成長期が始まろうとしている。このためにはさまざまな手段を活用しなければならない」と述べている。市場での資金調達は欧州債務危機のため困難になったが、新たな協力は従来のものと違って、ハンガリーの財政的・経済的独立性を向上させるもので、融資を受けるわけではないので政府債務は増加せず、あくまでもハンガリーへの投資者に対する安全性を確保するための一種の保険契約だ、と説明している。

（今津恵保）

（ハンガリー）