各地で反政府デモが激化−高失業率と物価高騰が引き金に−
パリ発
2011年01月12日
2010年12月中旬からチュニジア中西部のサディ・ブジッドで始まった街頭デモは全国的な広がりをみせ、運動の過激化に伴い軍が介入、死者が出ている。ベンアリ大統領は就任24年目にして最大の社会危機に直面している。内陸部の高失業率と物価高騰、現大統領が長期政権を敷く政治体制への不満が爆発、インターネットによって厳しい言論統制をくぐり抜け、若者層を動員するという新しい市民運動が生まれている。若者を中心とした示威運動は、同様の社会問題を抱えた隣国のアルジェリアにも飛び火している。
<20都市以上で街頭デモ>
サディ・ブジッドで10年12月17日、野菜・果物を許可なく販売していた26歳の失業者が、当局に摘発され商品を没収されたことに抗議して、路上で焼身自殺を図った。この事件は、学歴があっても失業し、窮乏にあえぐ若者層の絶望を象徴するものとなった。これをきっかけに若者層の不満が爆発、サディ・ブジッドを皮切りに、首都チュニスをはじめ東部のスースなど全国20都市以上で街頭デモが行われた。11年1月4日にこの若者の死亡が確認され、社会運動は大学生や高校生だけでなく、弁護士などの職業に就いている高学歴者の間にも広がった。
1月9日時点で、アルジェリア国境に近い西部の都市、タラ、レガブ、エル・カスリンを中心に、市民と警察・軍との衝突で状況はいまだに緊迫している。警察の発砲による死者は、政府公式発表によると14人、野党民主急進党書記長によると23人、人権団体・チュニジア人権協会のメンバーによると50人に上る(「エル・ワッタン」紙電子版1月10日)。政府側は12月17日以来沈黙を続けていたが、1月9日サミール・ラビディ通信相兼広報官が「国民のメッセージを受け止めた」との公式見解を発表した。
<インターネットが若者の動員に一役>
国際人権連盟(注)およびチュニジア人権協会の会長スハイール・ベラセン氏は、今回の事件が大規模な若者の社会運動に広がった要因として、インターネット上のソーシャルネットワーク(SNS)がもたらす若者同士のつながりの強さと、情報伝達の即効性を挙げている。若者が発信する声は、SNSを介して政府の言語統制をくぐり抜け、同世代の人間に伝わり、市民運動の拡大に影響を及ぼしたと分析している(「Afrik.com」1月7日)。
インターネット上では政府と反政府側の攻防が展開されている。ここ数日、政府側は社会運動の広がりを防ぐため、ブログやEメール、フェースブックなどへのアクセスをブロックする言論統制を行おうとしている。一方で、「アノニマスグループ」と称する反政府運動組織が、政府関係の公式サイトへのアクセスを不能にするなどして対抗している。
<政権への影響は微妙>
ベンアリ大統領は1987年就任以来5期目、24年目にして初めて大規模な社会運動に直面することになった。この社会運動が現体制を揺るがすかどうかについては、専門家は慎重な見方を示している。長期政権が続くチュニジアでは、現大統領に代わる反体制派の政治的リーダーが見当たらず、14年に控えた大統領選挙ではベンアリ大統領の6期目の出馬が予想されている。政権交代が実現する可能性は今のところ小さいとみられる。
<雇用、インフラ対策には疑問>
経営者団体のチュニジア工業・商業・手工業連盟は1月7日、「大卒者雇用キャンペーン」を発表した。このキャンペーンは、今後1〜2ヵ月の間に5万人の大卒者を雇用するよう促すもので、従業員50人以上の企業で少なくとも2人以上、従業員100人以上の企業で4人以上の大卒者を管理職に採用し、その中でも長期失業者と低所得世帯出身者の優先的雇用を促進するとしている。また、政府は地方開発資金として67億ディナール(約3,800億円)を融資し、優先的に内陸部のインフラ開発を進めるとしている。
これらの火消し的対策にどれほどの効果があるかは疑問視されており、運動の鎮静化につながるかは不透明だ。
<アルジェリアでは基礎食品の価格高騰がきっかけ>
アルジェリアの首都アルジェの郊外地区バブ・エル・ウエッドなどでも11年1月5日、基礎食品の価格高騰に対する市民の街頭デモが始まり、翌日にはオラン、タジ・ウズー、アナバなどの都市に広がった。若者を中心とした街頭デモは外国ブランド商品の店や外資系銀行などの破壊や略奪といった暴動へと過激化し、内務省発表によると1月7日には警察側の催涙弾や実弾で3人の死亡が確認され、1,000人以上の逮捕者が出たようだ。
暴動の拡大を回避するため、閣僚委員会は1月8日、砂糖、油、穀物など基礎食品の関税を11年8月まで一時的に無税にすることを発表。この措置でこれら基礎食品の価格は少なくとも40%下がると予想される。1月10日現在、暴動は鎮静化しているが、今回の暴動は単に物価高騰を原因とするものではなく、チュニジアと同様、失業率が人口の75%を占める30歳以下の若者に集中している状況に起因していることから、若者層の社会不信は依然として深刻で、暴動の再燃が危惧されている。
(注)国際人権連盟は1942年に設立された国連との協議資格を持つ人権NGOの1つ。世界人権宣言などに基づき、人権の国際的保障の確保を目的としている。世界26ヵ国に41の加盟団体を持つ。
(渡辺智子)
(チュニジア・アルジェリア)
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