新駐日大使が米国投資を呼び掛け-「変革の時代の米国製造業投資セミナー」開催-

(米国、日本)

米州課

2017年10月04日

ジェトロと米商務省セレクトUSAプログラムの協力事業の一環として、9月28日に東京都内で米国製造業投資セミナーが開催された。日系企業の対米投資の現状について講演があったほか、米国の南東部・南部および中西部で事業を展開している4社がそれぞれの取り組みや課題について話した。

米国経済における日本企業のプレゼンスは年々拡大

今回のセミナーは、ジェトロと米商務省セレクトUSAプログラムの「日米間の投資促進に資する趣意書(MOI)」(2016年2月締結)に基づくもので、「変革の時代の米国製造業投資セミナー」と題して開かれた。セミナーには173人が参加し、進出日系企業幹部4人と在日米国大使館からウィリアム・F・ハガティ新駐日米国大使、キース・カーカム商務担当公使らが登壇した。

冒頭の主催者あいさつで、ジェトロの石毛博行理事長は米国への投資の意義について、世界最大の消費市場である米国を取り込める点や、最先端の技術革新の流れに身を置けることを紹介した。続いてハガティ大使は「米国は革新的でダイナミックな日本企業に、最適な市場とビジネス環境と資源を持ち合わせている。私たちは皆さんをお迎えし、米国でビジネスを成功されるよう支援する」と述べた上で、「日本と米国は互いに重要なパートナーであり、両国の共通の枠組みや価値観、世界に誇る技術や自然の相乗効果を考えると、多様で均衡の取れた双方向投資の恩恵を受ける国は日本と米国以外にいない」と強調した。また、大使が2011~2015年にテネシー州経済開発庁長官時代に誘致した投資の65%が日本企業によるものだったとのエピソードを披露した。

ジェトロの秋山士郎米州課長は基調講演の中で、日系企業の対米投資の伸びは堅調で、米国経済における日系企業のプレゼンスがあり、今後米国進出を考えている企業にとっての後押しになると述べた。米国大使館商務部のパット・キャシディ商務参事官と千野淳子セレクトUSA商務専門官は、米国への直接投資動向に触れながら、世界最大の投資受け入れ国としての現状について解説した。

写真 主催者あいさつをするウィリアム・ハガティ駐日米国大使(ジェトロ撮影)

進出企業4社が取り組みや課題を紹介

パネルディスカッションでは、米国で事業を展開している4社が進出の経緯、取り組み、課題などについて話した。

自動車部品大手ヨロズ(本社:横浜市)の佐藤和己取締役副会長は、米国進出の理由として、米国内に集積する大手自動車メーカーの存在を挙げた。1986年にテネシー州に合弁で会社を設立して以来、米国日産、米国マツダ、ゼネラルモーターズ(GM)などから受注するなど、同社の質の高い製品が米国市場で受け入れられ、それに伴い順調なペースで事業を拡大してきたと語った。一方、急成長の裏では人材不足で従業員の残業が増え、モラルが低下したことや、問題を解決するために米国人を責任者に採用して業務体制や内容の見直しを進めたこと、「ラウンド・テーブル・ミーティング」という昼食の時間を利用して、米国人トップと従業員がざっくばらんな話をする機会を作るなどの取り組みを披露した。そして最後に、米国でビジネスを行う上でのコミュニケーションの重要性を指摘し、身振り手振りでもいいから自分で言葉を尽くすことが重要と述べた。

テキサス州ヒューストンを拠点に北米で空調事業を展開するダイキン工業(本社:大阪市)の足田紀雄執行役員は、過去3度にわたる米国進出の取り組みや住宅用空調大手グッドマン買収の経緯を語った。ダイキン工業が品ぞろえや技術開発力などに強みを有する一方で、グッドマンは住宅市場向け製品のコスト競争力に優れる上、米国内に900社の販売拠点と、傘下に6万店のディーラーを抱える。買収を通じて互いの強みと弱みを補完し、北米住宅空調市場で本格的に事業展開していると述べた。5月、ヒューストン近郊にグッドマンの生産・物流施設を集約した「ダイキン・テキサス・テクノロジーパーク」を開所し、今後は、生産・物流施設の集約を通じた低コストのサプライチェーン・マネジメント(SCM)の進化や、ダイキン工業の最新のIoT技術の活用を図ると話し、新商品開発のために研究開発(R&D)センター(テキサス州)やシリコンバレー・テクノロジー・オフィス(カリフォルニア州)を設立したことを紹介した。

バスや鉄道用の運賃箱やフォークリフトのバッテリー充電器などを製造するレシップ(本社:岐阜県本巣市)の米国子会社代表取締役の藤井章夫氏は、米国進出のきっかけとして日本国内と同等の高機能運賃箱の市場が北米にしかなかったこと、日本より大きな市場規模であること、オバマ前政権下において公共投資の拡大が期待できたことを挙げた。米国市場で苦労したこととして、日本向けと米国向けでは製品の使用方法や扱いが異なり、日本のエンジニアが想定していなかった故障などが起こったことや、バイアメリカン法への対応などについて述べた。その上で、諸課題を丁寧に解決し、顧客が製品とサービスを納得すれば、他地域の同業者に口コミで伝わりビジネスが広がるのが、米国市場の特徴だと説明した。

7月にインディアナ州シェルビービルへの進出を発表したばかりの木村鋳造所(本社:静岡県駿東郡)の木村崇常務取締役は、開発した3Dプリンターを利用した鋳造技術を利用できる市場として米国に目を付けたと話した。米国の鋳物市場は日本の約3倍の1,200万トンの需要規模があるものの、中国からの輸入にほぼ依存しており、工場設立によってビジネスチャンスをつかむ狙いだった。米国で研究開発を行う日系企業や、試作・開発用のニーズが増えていたことも進出を決める要因だったという。進出決定まで約10年かかった点について、米国でどれだけ需要を生み出せるか未知数の中、進出はナンセンスだと言われてきたことや、3Dプリンターは新市場なので指標がなく、全体像が把握できなかったなどと語った。

パネルセッションでは活発な質疑応答が行われ、各社の悩みとして好景気に伴い人員確保が難しくなっている点や、生産性向上に向けた取り組みなどが紹介された。トランプ政権の政策の影響については「米国、メキシコとも影響は出ていない」(佐藤氏)ものの、「パリ協定からの脱退による影響などを見極める必要がある」(足田氏)との発言があった。

会場では、米国17州の在日事務所による来場者への情報提供も行われた。

写真 パネルディスカッションの様子(2点ともジェトロ撮影)

(飯沼里津子)

(米国、日本)

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