12年のユーロ導入計画に慎重論も−ユーロ10周年の評価と金融危機後の課題(17)−

(ポーランド)

ワルシャワ発

2009年01月29日

政府は2012年のユーロ導入を目標として掲げている。しかし、経済条件だけでなく憲法改正など法的条件も満たす必要があり、トゥスク首相には政治・経済両面での課題が残されている。世論はユーロ導入には理解を示すものの、12年の導入については慎重な意見が多い。

<09年上半期にERM2に参加の計画>
財務省は08年10月、ユーロ導入に向けたロードマップを発表した(表1参照)。それによると、09年上半期に欧州為替相場メカニズム(ERM2)に参加、11年半ばに欧州委員会によるユーロ導入の承認、通貨ズロチとユーロとの交換レート決定を経て、12年1月1日にユーロを導入する計画だ。市民生活へのスムーズな浸透を図るため、ズロチとユーロの交換レートが決定してから導入後6ヵ月までの期間は、ズロチとユーロの二重表示義務が課される。ズロチの流通停止時期、市中銀行・中央銀行でのユーロへの無料両替期間は、現時点では決まっていない。

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<最大野党は「20年の導入」を主張>
ロードマップによると、ポーランドはユーロ導入の5つの経済条件のうち、物価、財政赤字、公的債務残高、金利の4点については基準を満たしている。今後の課題は、ERM2 参加という為替条件だ。しかし、08年5月に欧州委員会が発表した「収れん報告書」では、基準を満たしていたのは金利条件だけだった。

法的条件については、憲法や中央銀行法の改正が課題だ。例えば憲法第227条は、法定通貨を発行する主体はポーランド国立銀行(NBP)であることなどを定めており、ユーロ導入に際してはその改正が必要になる。憲法改正には下院で3分の2以上の賛成が必要で、現状では野党の支持も得なければならない。最大野党の保守系「法と正義(PiS)」は、早期のユーロ導入に消極的な立場をとっている。同党党首のヤロツワフ・カチンスキ前首相は、20年のユーロ導入が妥当として、12年の導入については国民投票の実施を求めている。

これに対し与党「市民プラットフォーム(PO)」のトゥスク首相は高い政党支持率を背景に、国民投票は実施しない方針を表明。11年に予定している総選挙の結果次第では、与党単独で憲法改正に踏み切る可能性に言及している。

<世論調査でも「12年に導入」は30%と少数派>
世界的な金融危機の影響を受け、政府は09年の成長率見通しを4.8%から3.7%に下方修正した(2009年1月8日記事参照)。政府は銀行預金保護や中小企業支援策などを盛り込んだ「安定・成長計画」を発表したほか、NBPは0.75ポイントの金利引き下げを実施している。レフ・カチンスキ大統領(PiS出身)は、政府目標の12年ユーロ導入はこれらの景気対策と矛盾しており、「非現実的だ」とコメントしている。大統領は、景気が回復してからのユーロ導入を主張しており、導入時期は10年以降に決めるべきだと発言している。

世論もユーロ導入には理解を示すものの、早期の導入を強く支持しているわけではないようだ(表2参照)。09年1月の調査では、12年のユーロ導入を支持する意見は30%にとどまり、「EU経済との格差を縮めてから」という意見が60%を占めている。

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NBPのコバレフスキ・ユーロ圏統合室長は、ユーロ導入について「ポーランドの義務であり、希望である」と明言する。NBPは今後ユーロに関するウェブサイトを立ち上げるなど、積極的な広報活動を展開する予定だ。一方で、12年のユーロ導入については「技術的には可能」としながらも、「金融政策の放棄がポーランド経済に与える影響、財政規律が市民生活に及ぼす影響といったマクロ・ミクロの両面を考慮しつつ、慎重に進めるべきだ」との認識を示している。

(志牟田剛)

(ポーランド)

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