失業保険の協約改定で労使が合意-最長36ヵ月の給付開始を遅らせ55歳に-

(フランス)

パリ発

2017年04月13日

 経営者団体と主要労組団体は3月28日、失業保険の給付条件を定める労使協約の改定に合意した。シニア労働者を優遇している失業保険の最長給付期間36ヵ月の適用を、現行の50歳から55歳に遅らせる。また、雇用主負担の保険料を最長3年間、給与の0.05%を上乗せし4.05%とする。今回の改定により、年間約12億ユーロの経費節減を見込む。新協約は9月1日に発効し、3年間有効となる。

失業保険の支出は年間4億ユーロ削減

これまで失業保険の給付期間は50歳未満が最長24ヵ月、50歳以上が最長36ヵ月となっていたが、最長36ヵ月受給できる年齢を55歳にする。52歳までは最長24ヵ月、53~54歳は最長30ヵ月の給付とする。50~54歳の受給者が職業訓練を希望する場合は最高500時間分の職業訓練受講の権利が与えられ、53~54歳の受給者が職業訓練を受講する場合は失業保険の受給期間が最長6ヵ月延長される。同措置により、失業保険の支出は年間4億ユーロの削減となる。

雇用主負担の保険料は、現行の額面給与の4%に3年間を期限として0.05%上乗せし、4.05%とする。保険料の引き上げはあくまで暫定的なもので、毎年見直す。同措置により、年間2億7,000万ユーロの増収となる。一方、2013年7月1日から適用されている短期雇用に対する例外的な雇用主負担の増額分(1ヵ月以下の契約は3%上乗せ、1~3ヵ月の場合は1.5%上乗せ)は、新協約の発効と同時に廃止する。また、飲食業など特定業種に適用されている増額分(3ヵ月以下の契約は0.5%上乗せ)は、新協約の発効から18ヵ月後に廃止する。

失業保険の受給に必要な期間を短縮

短期契約の下で働く被雇用者に対しては、失業手当を受給するために必要な最低加入期間を短縮した。離職前28ヵ月のうち(50歳以上は36ヵ月)122日を88日に短縮する。同措置によって、3万4,000人が新たに失業保険の対象となり、10万2,000人が失業保険を早期に受給できると見込まれる。

合意書には、失業保険制度の連帯責任者として政府に財政負担を要請する条項が盛り込まれた。日本のハローワークに相当する雇用あっせん機関ポール・アンプロワの運営は一部を失業保険で賄っており、2001年に約10%だった負担割合が現在では全体の約3分の2に拡大し、失業保険制度の大きな負担となっている。このため労使は政府に対し、2017年末までにポール・アンプロワの運営費に関する協議の開始を要請した。

2016年の累積赤字は300億ユーロ

労使により共同運営されている失業保険は、労使が2~3年ごとに締結する失業保険制度の運用に関する労使協定を承認する政令(デクレ)の発布をもって適用される。労使は、2016年6月末の協定期限に向けて同年2月から交渉を行っていたが決裂し、政府が7月14日にそれまでの協定内容を維持するためのデクレを発布していた。

2016年の決裂は、交渉が労働法改正の審議と同時期に行われ労使関係が悪化したこと、急務となっている失業保険の収支立て直しのための歩み寄りがなかったことが原因となった。失業保険の収支は2009年以降、失業率の上昇に伴い急激に悪化している。ここ数年は毎年35億~50億ユーロの赤字が計上されており、2016年の累積赤字は300億ユーロに達している。

労使協定による制度の維持を望む労使にとっては、大統領選前の土壇場の合意となった。経営者団体MEDEFのピエール・ガタズ会長は「今回の合意は労使が責任を取り、これまでの立場を超えた野心的なものだ。今後、政府が責任をもって合意の内容を実現することが重要だ」と述べた。

ちなみに大統領選挙の活動が本格化する中、支持率の高いエマニュエル・マクロン候補は、失業保険を国が管理し、自営業者や自主退職者にも対象を広げる一方、就職の提案を2度拒否した場合の給付打ち切りなど、大幅な失業保険の改定を公約に掲げている。

交渉に参加した主要労組5団体のうち、フランス民主主義労働同盟(CFDT)、キリスト教労働者同盟(CFTC)、労働者の力(FO)、フランス幹部同盟・幹部総同盟(CFE-CGC)の4団体が協定に署名し、共産党系の労働総同盟(CGT)は署名を見送った。

(奥山直子)

(フランス)

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