外国人労働者、2018年から雇用者の責任を強化-依存の低減求められる産業界-

(マレーシア)

クアラルンプール発

2017年02月22日

 マレーシア政府は1月12日、2018年から外国人労働者について雇用者が全面的に責任を負う雇用者必須確約(EMC)を導入する意向を表明した。外国人労働者への依存を避けたい政府は2016年から厳しい施策を断続的に打ち出しているが、産業界の反発を受けて緩和・撤回を迫られる状況が続いてきた。今後、産業界は段階的に外国人労働者への依存を低減させることが求められそうだ。

<労務政策に不透明感、規制と緩和の間を迷走>

 マレーシア政府は2016年以降、矢継ぎ早に外国人労働者に関する政策を出してきた(表1参照)。2016年2月には不法就労する外国人労働者の実態を把握することを目的に、不法就労外国人に対して労働許可証を付与する再雇用プログラムを発表した。他方、3月には新規受け入れの凍結、外国人労働者にかかる年次人頭税(レビー)の増額を決定したほか、7月には最低賃金改定に伴う賃金引き上げを実施した。

表1 外国人労働者をめぐる主な政策の推移

 しかし、こうした断続的な政策に対する各業界からの猛反発を受けて、政府は政策の実施先送りや見直しを頻繁に行うなど、労務政策の不透明感が強まっている。例えば、2016年3月のレビー引き上げは、当初は製造業の場合では1人当たり1,250リンギ(約3万1,250円、1リンギ=約25円)から2,500リンギへの増額を発表していたが、実際には1,850リンギに引き上げ幅を圧縮した。また、2016年末にはレビーの負担を外国人労働者本人から雇用者に切り替える措置を突然発表し、2017年1月から実施する予定だったが、2018年に先送りした。また、2016年3月から実施している新規の外国人労働者流入凍結措置は、製造業では2016年7月以降、案件に応じて措置緩和へ転じたほか、2017年1月にはサービス業の一部でも緩和を決めるなど、労務政策の迷走ぶりが散見される。

 

<責任の一切を負わせる雇用者必須確約>

 立ち仕事や夜勤などの労働が多い製造現場での仕事は、マレーシア人が敬遠する傾向にあり、外国人が貴重な労働力となっている。内務省によると、合法な外国人労働者総数は213万5,035人で、労働力人口の14.5%を占める。合法の外国人労働者だけでも既にマレーシアの主要民族の1つであるインド系人口199万人を上回っている。さらに、非合法に従事する外国人労働者は少なく見積もっても200万人といわれている。国籍別にみると、2015年時点でインドネシアの83万5,965人が最大で、合法の外国人労働者全体の39.2%となっている(表2参照)。2000年時点の74.8%からは大きく低下したものの、依然インドネシアは最大の流入元となっている。また近年では、ネパールやミャンマーなどからの労働者が増加傾向にある。

表2 外国人労働者の国籍別内訳

 先進国入りを見据え、外国人労働者への過度な依存を避けたい政府は、外国人労働者を貴重な戦力とみる産業界に配慮して国内での就業を拒否はしないものの、外国人労働者の登録、雇用、契約を終えて外国人労働者が母国に戻るまで、その責任を雇用者が負うことを定める雇用者必須確約(EMCEmployer Mandatory Commitment)を2018年に実施する。EMCは、雇用者に対して外国人労働者の人権に配慮した各種条件の整備を雇用者に課すことになる。具体的には、レビーを雇用者負担とすること、残業代を必ず支払うこと、病気休暇の付与、寮の完備、パスポートの取り上げ禁止、無許可の雇用禁止など既存の規定を含め、労働者個人ではなく雇用者側が負う責任を強化する。政府は、EMCの導入により、マレーシアの資本集約産業の振興など産業高度化を後押しすることを期待する。

 

<クアラルンプール市の勇み足の規制で混乱も>

 外国人労働者への過度な依存は、マレーシア経済にとってマイナスの側面がある。労働集約産業からの脱却が遅れることで「中所得国のわな」に陥る懸念、外国人労働者の本国送金による資本流出、雇用期間が限定されるため外国人労働者が技能を習得しても最終的にマレーシアでその技能を持つ人的資本が残らない点だ。しかし、マレーシア自国民の労働者が集まりにくい製造業やサービス業の分野で、産業界の外国人労働者への依存度は高い。外国人労働者をめぐる政策変更が迷走しているのも、外国人労働者を確保したい産業界と、産業高度化に向けた規制強化を進めたい政府との間の激しい駆け引きが背景にある。

 

 マレーシア人の雇用に力を入れるあまり、外資系企業にも影響が出た事例が最近みられた。政府は2016年末に、クアラルンプール市内で飲食業や小売業などに対して、外国人が行う違法な露店や屋台を取り締まる目的で、ビジネスライセンス発給の条件として、(1)マレーシア個人株主が50%以上出資する、(2)従業員総数の50%以上をマレーシア人とする、という2つの新たな要件を突如発表した。このため、一部外資系企業でライセンスの新規発給や更新ができない事態が起こった。本件は、20172月にクアラルンプール市長が、所轄官庁から既にライセンスを得て営業している日系企業など外資系企業には適用されないと発表したことで、日系企業の動揺は沈静化した。政府がマレーシア人の雇用創出と雇用促進に躍起になっている一例といえよう。

 

(新田浩之)

(マレーシア)

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