スペイン領セウタへ大量の越境者、問われる国境管理の対モロッコ依存

(スペイン、モロッコ)

マドリード発

2026年08月19日

モロッコから北アフリカのスペインの飛び地セウタ(人口約8万4,000人)へ7月30日に越境者が殺到し、スペイン政府によると約7万2,000人が流入した。ほとんどは数日でモロッコ側へ戻ったが、報道によれば、セウタ側で83人の死亡(8月9日時点)が確認された。

直接のきっかけは、スペインの最高裁判所が6月下旬、物理的な国境フェンスなどを不法に突破した陸上越境者に適用される法的扱いとは異なり、海上国境は乗り越えることのできる物理的な障壁を構成しないため、海上越境者には、即時の「国境拒否」を適用できず、通常の送還手続きが必要と判断したことだ。これがSNS上で「泳げば追い返されない」「国境が開かれる」と曲解され、群衆行動を増幅したとみられる。報道機関やオープンソース分析企業は、越境は自然発生ではなく、参加者募集や集合時刻・経路の共有を伴う組織的動員だったとしている。若者の失業や社会への不満も背景にあるとされる。モロッコ治安当局が大量移動を十分抑止しなかった点をめぐり、スペインの情報機関は、モロッコは流入を許容し政治利用したと結論付けた(8月3日付「エル・パイス」紙)。

ペドロ・サンチェス首相は、今回の事案を「スペインの領土保全に対する攻撃、侵害」とし、人身取引組織による判決の悪用と説明した。一部メディアや識者は、首相による7月20日のアルジェリア訪問(2026年8月7日記事参照)に対するモロッコ側の反発が影響した可能性を指摘(注)した。スペイン政府筋は関連を否定している。スペインの社会労働党と民衆党の2大政党は、漁業や通商を含め幅広い分野で協力関係にあるモロッコ政府への直接的な批判に慎重な一方、急進左派や極右ボクスは、移民を利用して相手国に政治的圧力をかけるモロッコによる「ハイブリッド攻撃」と踏み込んだ。

EU各国からは発生当初、スペインの移民大量正規化(2026年4月30日記事参照)やシェンゲン圏への波及を懸念する声も出た。事案の収束後の8月4日に開催されたEU加盟国内相による非公式オンライン会合では、スペインへの「全面的な連帯」が表明された。

スペインでは、主要シンクタンク「王立エルカノ財団」が、1990年代以降、スペインが国境管理をモロッコに依存してきたことが、政策や対応に対する同国の影響力を高めたと指摘するなど、今回の大量越境を受け、こうした国境管理のあり方が改めて問われている。また、欧州委員会のマグヌス・ブルンナー内務・移民担当委員も、EUの国境管理を一国の「善意」に委ねる脆弱(ぜいじゃく)性を指摘し、査証・通商政策を通じてEUの影響力を活用すべきとした。一方、モロッコ政府筋は「われわれは欧州の憲兵でも管理人でもない」とし、EU規制が同国の港湾、銀行、自動車分野の発展を阻害していると不満を表明した(8月4日付「Medias24」)。

イタリアは8月1日、スペインから空路・海路で到着する第三国国民への検査を開始した。ジョルジャ・メローニ首相は「国家安全保障を守るための例外措置」として、少なくとも8月15日まではシェンゲン協定の例外規定による一時的な国境管理を再導入すると表明したが、この措置は9月1日まで維持される方向だ。スペインも8月8日から9月7日まで、イタリアからの到着旅客(イタリア国籍者を含む)への国境検査の再開を決定した。

(注)モロッコ南部に位置する西サハラを巡り、大部分を事実上支配するモロッコと、独立運動を続ける「ポリサリオ戦線」を支援するアルジェリアの間で対立が続いている。

(伊藤裕規子)

(スペイン、モロッコ)

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