米商務省、石炭の輸入に対する232条調査を開始、安保上の懸念に基づき
(米国)
ニューヨーク発
2026年07月03日
米国商務省産業安全保障局(BIS)は7月2日、1962年通商拡大法232条に基づいて、無煙炭の輸入が米国の国家安全保障に及ぼす影響の調査を開始したと発表した。正式には7月7日に官報
で公示する。約10カ月ぶりの新規の232条調査の開始となる。
232条は、特定製品の輸入が米国の安全保障に脅威を及ぼす場合に、大統領に追加関税などの輸入制限措置を発動する権限を認めている。232条に基づく輸入制限措置の発動に先立ち、商務省は270日以内の調査を実施し、当該製品の輸入が米国の安全保障に脅威を及ぼすか否かの判断や、追加関税などの輸入制限措置の提言を取りまとめる(注1)。
BISの発表によれば、無煙炭の輸入に対する調査は6月29日から開始した。調査対象には、米国関税分類番号(HTSUSコード)2701.11.0000(無煙炭)および2701.12.0010(冶金用歴青炭)に分類される製品が含まれる。また、製品の特性として、高い炭素含有量(86~97%)を有し、揮発分が少なく、発熱量に優れる最高級の石炭と定義した。
その上でBISは、米国内の鉄鋼や工業製品の製造において不可欠な材料とみなされる無煙炭および冶金(やきん)用歴青炭製品を主な調査の対象としていると説明した。これらの石炭は、232条に基づいて別途追加関税の対象となっている、鉄鋼派生品の生産においても重要な役割を担うと記載した。官報案はまた、鉄鋼メーカーが、電気アーク炉(EAF)製鋼プロセスに無煙炭を使用しているとも述べ、無煙炭は産業、防衛、インフラにおいて極めて重要な業務を支えていると指摘した。
なお、2025年の米国の輸入統計に基づくと、米国が今回の調査対象製品を輸入している相手国・地域の数は限定的だ。無煙炭については、輸入額が大きい順に、ペルー、英国、中国、カナダとなっており、また冶金用歴青炭はカナダ、カンボジア、アイルランド、オーストラリアとなっている(注2)。
BISは調査にあたり、パブリックコメントを募集する。具体的には、無煙炭の米国内生産が米国内需要をどの程度満たすか、外国政府が輸出制限などを通じて無煙炭の供給を「武器化する」可能性はあるか、といった点について意見を求める。コメント提出の締め切りは官報掲載日から14日後で(注3)、連邦政府のポータルサイト
を通じて提出できる(ID:BIS-2026-0298)。
今回の232条調査開始の発表にあたり、米国通商専門誌「インサイドUSトレード」(7月2日)は、ペンシルベニア州、バージニア州、ウェストバージニア州の石炭残渣(ざんさ)産業に関する業界団体であるアパラチア地域独立発電事業者協会が2025年7月に、商務省のハワード・ラトニック長官に、232条に基づき無煙炭の輸入に100%の関税を課すための措置を講ずるよう書簡を送付していた、と報じた。
トランプ政権は、232条に基づく特定製品への追加関税措置を多用してきた。2025年は就任直後の3月から6カ月余りで12の分野で新規の232条調査を開始した。そのうち、調査結果を明らかにした6分野では、ほぼ全てで追加関税を課す措置を講じた(添付資料参照)。今回の無煙炭に対する調査は、医療用消耗品・医療機器に対して調査を開始した2025年9月以来(2025年9月26日記事参照)、おおよそ10カ月ぶりの新規の調査の開始となる。なお、いくつかの調査は、商務省が大統領に調査結果を報告すべき270日の期限を過ぎていると指摘されているにもかかわらず、調査結果が公表されていない。
(注1)232条に基づく調査、報告、措置決定などの手続きの詳細は、2024年12月10日地域・分析レポート参照。
(注2)米国際貿易委員会(USITC)の輸入統計に基づく。
(注3)締め切りは、7月21日になるとみられる。
(赤平大寿)
(米国)
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