トランプ米大統領、最先端AIの事前審査などに関する大統領令に署名、開発企業の自主的協力を重視
(米国)
ニューヨーク発
2026年06月04日
米国のドナルド・トランプ大統領は6月2日、人工知能(AI)のイノベーション促進とサイバーセキュリティー強化に関する大統領令に署名
した。
トランプ氏は2025年1月の大統領就任から、AIにおける米国の競争上の優位を維持・強化するための規制緩和を推し進めてきた(注1)。一方で、アンソロピックが2026年4月7日に新型AIモデル「クロード・ミュトス」を発表し、その中でサイバーセキュリティー上、重大なリスクをもたらす可能性があることを明らかにしたことを受け、政権内部から、悪用を懸念する声が上がっていた(注2)。
大統領令では、AI開発企業による最先端モデル(注3)のリリースに先立ち、連邦政府が当該モデルを最大30日間審査ができる枠組みを策定するよう、財務長官などに指示した。また、連邦政府がAI開発企業と協力して、当該モデルへの早期アクセスを認めるパートナーを選定するよう定めている。なお、大統領令では、これらの枠組みの中でAI開発企業に求める内容はあくまで自主性に基づくとしており、「政府が強制的なライセンスや事前承認、許可要件の創設を認めるもの」として解釈しないよう定めている。
また大統領令では、政府機関や重要インフラ(注4)におけるサイバーセキュリティーの強化を指示した。例えば、国土安全保障長官などに、連邦・州・地方自治体や地方の重要インフラの運営者に対し、最先端モデルを含むサイバーセキュリティーのサービスなどへのアクセスを促進するよう指示したほか、国家安全保障システム委員会(CNSS)や戦争省(国防総省)に対し、それぞれのシステムにおけるサイバー防衛を優先的に実施するよう指示している。このほか、司法省に対するAIを活用したサイバー犯罪に対する連邦刑事法の執行強化などが大統領令に含まれた。
なおトランプ氏は当初、5月21日にサイバーセキュリティーに関する大統領令への署名を予定していた。しかし、AIの技術的覇権をめぐる米国と中国との競争の妨げになるとして、急きょ撤回していた。政治専門紙「ポリティコ」(6月2日)によると、今回署名された大統領令は、撤回されたものをベースとしつつ、連邦政府による事前審査期間を90日から30日へと短縮したことが主な変更点となっている。
(注1)トランプ氏は2025年1月、AIに対する規制緩和を指示する大統領令を発表した(2025年1月27日記事参照)。2025年7月に発表した「AI行動計画」は、同大統領令に基づいて策定されたもので、イノベーションの促進に向けて過度な規制を見直す方針があらためて示された(2025年7月25日記事参照)。
(注2)例えば、スコット・ベッセント財務長官は「クロード・ミュトス」発表を受け、大手銀行の最高経営責任者(CEO)らと緊急会合を開き、同AIモデルがもたらすサイバーセキュリティーへの影響を警告した(「ロイター」4月9日)。
(注3)大統領令では「対象フロンティアモデル(covered frontier model)」という呼称が定められている。また、「対象フロンティアモデル」として取り扱う基準を連邦政府とAI開発企業が協議することや、決定した基準やプロセスは機密扱いとすることも大統領令に定められている。
(注4)大統領令では病院、銀行、公益事業が挙げられている。
(滝本慎一郎)
(米国)
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