米臨床腫瘍学会の年次総会、AI活用と精密医療の実装が焦点
(米国)
シカゴ発
2026年06月12日
米国臨床腫瘍学会2026年年次総会が5月29日~6月2日、イリノイ州シカゴで開催された(2026年6月5日記事参照)。同学会は世界最大級のがん研究・臨床会議として知られ、世界各国・地域から医師、研究者、製薬企業、医療機器企業、スタートアップなど約4万人が参加した。
2026年のテーマは「トランスレーショナル研究(注1)の科学と実践―世界のがん治療成績向上に向けて」で、基礎研究成果を臨床現場へ実装する取り組みが幅広く議論された。会期中には、総会講演、口頭発表、臨床科学シンポジウム、ポスター発表など200以上のセッションが開催され、後期臨床試験(第3相試験)の結果や新規治療法に関する発表が注目を集めた。特に総会講演では、すい臓がん患者の生存期間を大幅に延長する可能性を示した第3相試験「RASolute 302」の結果が発表され、会場の大きな注目を集めた(2026年6月5日記事参照)。また展示会場では、製薬企業、診断機器メーカー、医療用人工知能(AI)やシステム開発企業、創薬支援企業などの最新技術や製品が紹介された。米国臨床腫瘍学会は学術発表の場であると同時に、事業提携や共同研究などのビジネスマッチングの場としての役割も担っている。
会場内の様子(ジェトロ撮影)
注目分野としては、抗体薬物複合体(ADC)(注2)、免疫療法、細胞・遺伝子治療、バイオマーカーを活用した精密医療に加え、AI創薬、AI診断、病理AI、診療支援などが挙げられた。肺がん領域のセッションでは、ALK陽性非小細胞肺がん(注3)患者の長期生存を前提とした再発管理や脳転移対策、QOL(生活の質)維持に関する議論が行われ、患者視点の評価指標の重要性も指摘された。
こうした中、AI技術の実用化に向けた議論が特に活発だった。創薬分野では、生成AIや機械学習を活用した標的探索や化合物設計が進展する一方、創薬成功率向上には臨床データやバイオマーカーデータとの統合が重要との認識が広がっていた。診断分野でも、病理画像や放射線画像に加え、電子カルテやゲノム情報を統合した診療支援システムへの関心が高い。
AI単体の性能競争から、医療機関との連携を通じたリアルワールドデータ(RWD)(注4)やリアルワールドエビデンス(RWE)(注5)の獲得・活用競争へと軸足が移りつつある点が印象的だった。AIの性能差が縮小する中、今後はアルゴリズムそのものよりも、質の高い医療データへのアクセス、医療機関との連携体制、実臨床での導入実績が競争力を左右するとの見方が広がっていた。
セッションの様子(ジェトロ撮影)
(注1)基礎研究で得られた知見や技術を、診断・治療法として臨床現場へ応用する研究。
(注2)がん細胞を認識する抗体に薬剤を結合させ、標的となる細胞へ効率的に薬剤を届ける治療技術。
(注3)肺がんの一種で、ALK(未分化リンパ腫キナーゼ)遺伝子異常が原因となるタイプ。
(注4)電子カルテやレセプト、患者レジストリなど、日常診療の過程で収集される医療データ。
(注5)リアルワールドデータを分析して得られる、医薬品や治療法の有効性・安全性に関する科学的根拠。
(住谷紗恵子)
(米国)
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