英政府、医薬品への追加関税撤廃を含む米国との合意発表
(英国、米国)
ロンドン発
2025年12月09日
英国政府は12月1日、米国との間で医薬品価格設定に関する合意に達したと発表した(英国政府発表
、米国政府発表
)。本合意により、米国が通商拡大法232条に基づいて賦課する追加関税について、英国産医薬品には少なくとも今後3年間、0%の優遇関税率が適用されることが定められた。2025年5月に締結された米英経済繁栄協定(2025年5月9日記事参照)の1分野として、その後も両国間で協議が継続されており、今回の合意に至った。英国製医療機器に対しても優遇関税が適用され、追加関税は課されないとした。
併せて、英国政府は革新的な治療法への投資を約25%増額する方針を発表。国立保健医療研究所(NICE)が国営医療サービス(NHS)での医薬品採用可否を判断する費用対効果基準を20年以上ぶりに大幅に引き上げる。具体的には、1質調整生存年(QALY:Quality-adjusted life year、注1)あたり2万~3万ポンド(約414万~621万円、1ポンド=約207円)としていた費用対効果基準を、2026年4月から2万5,000ポンド~3万5,000ポンドへ引き上げる。画期的ながん治療法や希少疾患向け治療法など、費用対効果の観点からこれまで不承認となっていた可能性のある医薬品の承認が可能となる。
ピーター・カイル・ビジネス・通商相は「少なくとも年間50億ポンドに上る英国の医薬品輸出が関税なしで米国に輸入されることが保証される」と歓迎した。また、業界団体の英国製薬工業協会(The Association of the British Pharmaceutical Industry: ABPI)は同日、声明
を発表し、「本合意は、患者が革新的な医薬品にアクセスできることを確実にする上で重要な一歩だ」と評価した。
さらに、英国政府側の発表に詳細は盛り込まれていないものの、米国政府の発表によれば、今回の米英合意により、英国政府は製薬会社が売上高などに応じて政府に支払うべき「ブランド医薬品価格、アクセス・成長に関する自主的スキーム(VPAG、注2)」に基づく還元率を2026年までに15%まで引き下げるとしている。ABPIによれば、現行制度ではNHSでの売上高の23.5%分の還元義務を製薬会社が負っている。
(注1)寿命の長さという便益を生活の質に応じて調整した指標。1QALYは、完全な健康状態での1年間の生存に相当する。
(注2)患者のアウトカム向上と健康人口の推進、英国の経済成長支援、経済的で持続可能なNHSへの貢献を目的とし、保健・ソーシャルケア省、NHSイングランド、ABPIの3者で合意されたスキーム。
(森詩織)
(英国、米国)
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