英政府、自動車・鉄鋼への追加関税削減含む米国との合意発表
(英国、米国)
ロンドン発
2025年05月09日
英国のキア・スターマー首相は5月8日、米国との間で貿易協定に合意したことを発表した。スターマー首相は、今回の合意は米国と交渉を進めている経済協定の基礎となるものとしている。英国政府によると合意の内容は次のとおり。
- 米国は英国産自動車に対する関税割当制度を導入。年間10万台を対象に10%の低関税を適用。割当枠を超える部分には27.5%の関税率を適用。なお、英国自動車製造販売者協会(SMMT)によると、2024年の英国産乗用車の輸出台数は約60万台、そのうち16.7%(約10万台)が米国に輸出されている。
- 英国産の鉄鋼・アルミニウムに対する米国の追加関税を撤廃。
- 牛肉の相互市場へのアクセスに合意。米国に輸出される英国産牛肉については、1万3,000トン分に対し、割当を設定して低関税を適用。一方で、輸入品に関する英国側の食品安全基準は維持。
- 米国産エタノールに対する英国の関税を撤廃。
英政府は、医薬品や米国によるベースライン関税などについては、米国との議論を継続するとしている。一方で、米国が通商拡大法232条に基づいて今後賦課する追加関税について、英国に特恵待遇を与えることで米国と合意したとしている。また、今回の合意を皮切りに、バイオテックやライフサイエンス、量子コンピュータ、核融合、航空・宇宙などの分野のパートナーシップ締結を目指すとしている。米国のテック企業に対するデジタルサービス税の引き下げについては、今回の合意には盛り込まれなかった。デジタル分野では、輸出時の企業の手続き負担軽減を目的としたデジタル貿易に関する合意に向けて取り組むことで米国と合意したとしている。このほか、米国が要求していたとされている米国産自動車に対する英国関税の引き下げについては言及がなかった(「BBC」5月8日)。
ダグラス・アレクサンダー通商政策・経済安全保障担当相は下院議会に対する演説で、合意に基づいて米国との正式な交渉に今後移ると述べた。
今回の合意に関し、国内産業界からはおおむね歓迎する声が上がっている。一方で、米国への譲歩がみられた農産品分野に関しては、英国の農業団体NFU(全国農業者組合)が国内産業への影響を懸念するとともに、今後の交渉で農業界が他の産業に比べて不釣り合いな負担を強いられるのは認められないとのコメントを発表している。
(山田恭之)
(英国、米国)
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