ドイツ政府、送電網使用料引き下げへ65億ユーロ補助、家計・企業の電気代負担を軽減へ

(ドイツ)

ベルリン発

2025年12月03日

ドイツ連邦政府は、電気料金の構成要素の1つである送電網使用料を2026年に引き下げるため、送電系統運用者に総額65億ユーロの補助を行う法改正を実施する。財源は気候・変革基金(KTF)で、法案は11月13日に連邦議会(下院)で可決、11月21日に連邦参議院(上院)で承認され、公布後に施行される予定だ。

補助により、一般家庭と企業の電気料金が軽減される。政府は、年間3,500キロワット時(kWh)を消費する標準的な家庭で約100ユーロの負担減を見込む。また、製造業および農林業向け電気消費量に応じて課せられる電気税を、EU最低税率に恒久化する法改正も11月13日に連邦議会で可決され、現在は連邦参議院での最終審議を待っている。さらに、ガス貯蔵賦課金は2026年1月から廃止される。政府は、これらを合わせた総合的な軽減額を年間約100億ユーロと見込んでいる。今回の措置は、キリスト教民主・社会同盟(CDU/CSU)と社会民主党(SPD)が連立政権発足に先立ち合意した連立協定(2025年4月11日記事参照)で掲げられたエネルギーコスト負担軽減方針の具体化策であり、産業競争力維持を狙う。

ドイツの電力網は、送電(超高圧)と配電(高・中・低電圧)で構成される。送電網は4地域に分けられており、50ヘルツ(50Hertz)、アンプリオン(Amprion)、テネット(TenneT)、トランスネットBW(TransnetBW)の4つの送電系統運用者が各コントロールエリアを管轄する。送電網使用料は「自然独占」とみなされる電力網事業に対する規制であり、連邦ネットワーク庁と管轄の州規制当局が事業者ごとの許容収益上限を、運用コストを基礎に設定し、その枠組みで送電網使用料が算定・公表される。

家庭向け電気料金は、(1)電力調達・販売費、(2)税金(付加価値税、電気税)、(3)送配電網使用料、(4)計測関連費用、(5)賦課金で構成される。

産業界は今回の措置をおおむね歓迎している。ドイツ産業連盟(BDI)は、送電網料金補助を「即効性のある暫定措置」と評価し、国際競争力のある電力価格実現に向けた重要な要素と強調。エネルギー集約型産業にとって負担軽減効果は大きいが、引き続きあらゆる不確実性の低減を求めている。エネルギー・水道事業連合会(BDEW)は、送電網使用料の引き下げを支持しつつも、軽減割合は地域によって異なり全ての電力利用者に均等な軽減ではないため、電気税の引き下げを要望している。ドイツ商工会議所連合会(DIHK)も、短期的な効果は認めつつ、長期的には送電網料金制度の抜本改革が必要と指摘した。

(中山裕貴)

(ドイツ)

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