欧州委、電力価格の引き下げ、エネルギー安全保障を目指す欧州送電網パッケージを発表

(EU)

ブリュッセル発

2025年12月19日

欧州委員会は12月10日、EUの送電網を近代化・拡張し、クリーンで手頃なエネルギーの統合や電化を加速することで、電力価格を引き下げ、エネルギー安全保障を高めることを目指す政策文書「欧州送電網パッケージ」外部サイトへ、新しいウィンドウで開きますを発表した(プレスリリース外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます)。

越境エネルギーインフラは、建設された地域を越えて利益をもたらすため、同地域の消費者にのみ過度な負担がかからないよう、資金調達においてはより高い透明性と公平性を確保し、費用と便益を評価する。また、特別目的事業体(SPV)の設立などを通じ、インフラプロジェクトを統合し、追加投資を呼び込むなどの資金調達手段も提案された。

背景には、EUは、域内の電力連系率を2030年までに15%とする目標を掲げているが、期限までに国家エネルギー・気候計画(NECP、2025年6月13日記事参照)を提出した23加盟国のうち、10カ国はこの目標を達成できない見込みとなっていることがある(添付資料表1参照)。また、2024年のEUの産業用電力価格はキロワット時(kWh)あたり0.199ユーロに達し、中国の0.082ユーロ、米国の0.075ユーロと比較し高い水準にある。2025年上期の家庭用電力価格はドイツの0.3835ユーロからハンガリーの0.1040ユーロ、非家庭用電力価格はアイルランドの0.2726ユーロからフィンランドの0.0804ユーロと幅があるのも、統合水準とインフラ投資が不十分であるため、と欧州委は指摘する。対応を行わない場合、越境電力容量の需要の45%〔41ギガワット(GW)相当〕は2030年までに未対応のままとなり、未利用の再生可能エネルギー(再エネ)は2040年までに最大310テラワット時(TWh)に達する可能性がある。これは、2023年の電力消費量のほぼ半分に相当する。このため、2028年から2034年までの次期中期予算計画(MFF)案(2025年7月22日記事参照)で、越境エネルギーインフラ整備予算を現行の58億4,000万ユーロから299億1,000万ユーロに拡大する案を提出している。

政策文書は、計画を実行に移すため、(1)許認可プロセスは加盟国の主権だが、EUレベルの枠組みを確立し、許認可手続きを簡素化・迅速化すること、(2)エネルギーインフラ需要の増加に対応すべく「EU配電網計画プラットフォーム」を立ち上げ、「需要の見える化」を行うこと、(3)EU予算が民間投資のリスク低減につながるよう、今後策定予定の「クリーンエネルギー投資戦略」を通じ、より強化された具体的な支援策を提案すること、(4)サイバーセキュリティー対策を含めエネルギーインフラの安全性を確保すること、を掲げた。

また、欧州委のウルズラ・フォン・デア・ライエン委員長が2025年9月の一般教書演説で発表した「エネルギー・ハイウェイ」に関し、整備が急がれる旗艦プロジェクト8件が選定された(添付資料表2、図参照)。欧州委は12月1日に、235件の越境エネルギー事業を「共通利益プロジェクト(PCI)」および「相互利益プロジェクト(PMI)」の第2弾に指定し(プレスリリース外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます)、許認可手続きの迅速化などを通じ、域内の統合を推進している。

(薮中愛子)

(EU)

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