欧州委、2030年までの消費者政策の方針を発表、産業界から規制追加の動きに異論も

(EU)

ブリュッセル発

2025年12月01日

欧州委員会は11月19日、2030年までの消費者政策に関する政策文書「2030消費者アジェンダPDFファイル(外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます)」を発表した(プレスリリース外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます)。物価の上昇や電子商取引(EC)の普及など時代の変化に即した消費者保護、またEU市場における公正な競争環境の担保を目的とする。重点分野に(1)単一市場における越境取引上の障壁の撤廃、(2)デジタル空間における公平性と消費者保護の強化、(3)持続可能な消費、(4)関連法令の効果的な執行を挙げ、施策方針を示した。

重点分野の中でも、デジタル空間における消費者保護は、ECの普及や人工知能(AI)技術の進展に伴い、ますます重視されている。EUはデジタルサービス法(DSA)やデジタル市場法(DMA、注1)、AI法(2025年2月13日記事参照)を施行したが、さらなる対策が必要として、2026年に「デジタル公正法」を提案する。ダークパターン(注2)といった消費者の脆弱(ぜいじゃく)性を悪用する行為や有害コンテンツからの未成年の保護について対策を強化する。一部の契約における消費者へ提供する条件の検討など、事業者の負担軽減にも取り組む。また、消費者がAIを活用したカスタマーサービスや情報検索を使用する際、AIの性質とリスクを認識できるよう透明性の確保を進める。

消費者保護の強化の背景の1つに、EU基準を順守しない製品の輸入増加がある(2025年9月24日記事参照)。特にデジタル市場では、約半数の事業者がEUの消費者関連法令に違反している現状を踏まえ、消費者保護協力規則を改正してEUおよび加盟国の執行体制を強化し、事業者間の公正な競争の実現に取り組むとした。

しかし、デジタル公正法の提案に関し、欧州のEC産業団体eコマース・ヨーロッパは11月5日付の声明外部サイトへ、新しいウィンドウで開きますで、既存の法令の相互関係を整理し、加盟国間での法の執行や解釈の不一致をなくすことが必要と指摘。新たな法は過剰な規制をもたらし、中小企業の事業やイノベーションに影響を及ぼし、EC市場の利点を損なう恐れがあるとした。小売・卸売業界の団体ユーロ・コマースも11月19日付声明外部サイトへ、新しいウィンドウで開きますで、既存の法令の執行の徹底を優先すべきと同様の考えを示した。消費者保護協力規則の改正は、EU域外事業者への対策として賛同した。

また、消費者アジェンダでは、加盟国のエコデザイン規則、修理する権利指令(注3)などの執行を支援し、消費者や企業の行動を変化させ、循環型経済を発展させるとした。消費者に修理事業者の情報を提供するオンラインプラットフォームを2028年までに開設するほか、中古市場や革新的なスタートアップへの支援も打ち出した。

(注1)DSAおよびDMAについては、ジェトロ調査レポート「EUのオンラインプラットフォーム政策の概要PDFファイル(643KB)」(2023年2月)参照。

(注2)消費者を特定の意思決定に誘導するウェブサイトの表示やデザインのこと。

(注3)ジェトロ調査レポート「EU循環型経済関連法の最新概要」(2024年11月)参照。

(滝澤祥子)

(EU)

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