韓国政府、半導体世界2強に向けて「AI時代の半導体産業戦略」を発表

(韓国)

ソウル発

2025年12月22日

韓国の産業通商部は12月10日、「AI時代の半導体産業戦略」を発表した。同戦略は、韓国の半導体産業の構造がメモリー半導体に偏っており(注1)、人工知能(AI)普及に伴い急成長しているシステム半導体やパッケージングなどの分野における競争力確保が喫緊の課題となっていることを踏まえ、策定された。システム半導体の競争力強化、素材・部品・装置分野の高い海外依存度の改善、優秀な人材の確保などを通じて、半導体世界2強(注2)を目指す。

同戦略の具体的な内容は次のとおり。

(1)AI半導体の関連技術・生産能力の確保

  • メモリー分野での次世代技術開発とAI半導体技術の開発:高帯域幅メモリー(HBM)を継ぐ次世代メモリー開発への支援、未来自動車・ロボット・防衛産業など個別分野におけるオンデバイスNPU(ニューラル・プロセッシング・ユニット)(注3)の開発、電力効率向上とフィジカルAIの実現に欠かせない化合物半導体(注4)の開発、先端パッケージング技術の確保に向けた集中投資など
  • 生産能力向上に向けた企業の設備投資支援:世界最大・最高水準の半導体クラスターの構築加速化(2024年1月17日記事参照)(注5)、素材・部品・装置メーカーの投資・生産支援の拡大など

(2)システム半導体のエコシステム強化

  • ファブレス(企画・設計)企業とファウンドリー(生産受託)企業のエコシステム構築:ファブレス企業の安定的な収益確保のためのミドルテック半導体(車載、電力制御など)の国産化支援や、12インチ40ナノメートル(nm)級ウエハー半導体を製造する「共生ファウンドリー」の立ち上げ(注6)など
  • 政府主導の防衛用半導体技術の確立:輸入依存度が高い(2023年12月時点で99%)防衛用半導体の国産化に向けた研究開発と武器システムへの適用・実証、防衛用半導体専門ファウンドリーの育成、専門人材を育成するための提携学科(修士・博士)を約10校設置など

(3)K-半導体産業を支える素材・部品・装置分野の人材育成

  • 素材・部品・装置サプライチェーンの強靭(きょうじん)化:同分野のグローバルNo.1育成プロジェクトの推進(HBM用ハイブリッドボンディング装置、3D・DRAM製造装置など)、半導体チップメーカーと連携した量産実証拠点「トリニティファブ」の発足など
  • 半導体の高度専門人材の養成:年間300人の専門人材輩出を目標とした「半導体大学院大学」の設立、「アームスクール(Arm School)」の設置・運営(注7)、半導体関連企業の退職者の教授任用など
  • 「半導体特別法」の制定によるガバナンス構築:大統領直属の半導体特別委員会の新設、約2兆ウォン(2,200億円、1ウォン=約0.11円)の半導体産業特別会計の新設など

(4)南部圏半導体革新ベルトの構築

  • 新規半導体クラスターの非首都圏設置を原則化
  • 光州、釜山、亀尾を結ぶ地域に新たな半導体生産拠点基盤を整備:光州に半導体先端パッケージング都市を構築、釜山のパワー半導体の素材・部品・装置特化産業団地を拠点に「電力半導体支援団(仮称)」を設立、亀尾では産学協力支援や中堅・中小企業の技術力強化を通じた「半導体素材・部品生産基地」造成など

(注1)韓国のメモリー半導体の世界シェアは2025年時点で65.6%。一方で、ファウンドリーのシェアは9.8%。

(注2)現在の半導体産業は「1強(米国)」「2中(韓国、台湾)」という構図であり、米国と並ぶ「2強」になることを指す。

(注3)電力消費を抑えながら、高速でAI処理を行うことに特化したプロセッサー。

(注4)シリコンと比較して、高い電力耐久性と効率性を持つ半導体。炭化ケイ素(SiC)製パワー半導体の性能向上、窒化ガリウム(GaN)や酸化ガリウム(Ga2O3)など素子の開発に向けた支援を想定。

(注5)2047年までに約700兆ウォンの投資を想定。2024年時点の計画では622兆ウォンだったが、今回の発表で上方修正された。

(注6)4兆5,000億ウォン規模、民間52%・国家(国民成長ファンドなど)48%の株式保有比率を想定。

(注7)ソフトバンクグループ傘下の英国・半導体設計企業であるアーム・ホールディングスと産業通商部は2025年12月に半導体とAI分野での協力を強化するMOU(覚書)を締結。

(橋爪直輝)

(韓国)

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