米国ワシントン州に水素ミッション派遣、水素事業の現状を視察

(米国)

サンフランシスコ発

2025年12月09日

ジェトロは11月17~18日、米国ワシントン(WA)州のシアトルに水素分野のビジネス環境視察ミッションを派遣した。水素サプライチェーンに携わる日本企業や公的機関など13社・機関が参加した。

初日は、WA州商務省から州の概要やエネルギー政策、グリーン水素を含むクリーンエネルギー関連のプロジェクトに対する補助金や税制優遇について説明を受けたほか、海事産業クラスター「Maritime Blue」やパシフィック・ノースウエスト水素協会、同州最大の電力・ガス会社のPuget Sound Energy(PSE)などがプレゼンテーションを行った。

WA州は、水力発電を中心とした再生可能エネルギーが豊富でグリーン水素の供給ポテンシャルが高いことに加え、港湾や航空など水素需要を創出する主要セクターが集積している。このため、供給・需要の両面で排出量取引を通じて排出削減を義務付ける法律、低炭素燃料への移行を促すクリーン燃料基準制度水素経済の基盤が整っており、「パシフィック・ノースウエスト水素ハブ」(PNWH2、2023年11月1日記事参照)の中核地域でもある。PNWH2はインフラ投資雇用法(IIJA)に基づき、連邦政府より最大10億ドル規模の支援を受ける予定だったが、トランプ政権下での方針転換により支援打ち切りが発表された。PNWH2を主導するパシフィック・ノースウエスト水素協会の担当者は、「(同支援打ち切りにより)プロジェクト総投資額の約2割を失ったものの、ワシントン州は2045年までに電力を100%クリーン化する目標を立てており、排出量取引を通じて排出削減を義務付ける州法や低炭素燃料への移行を促すクリーン燃料基準制度があること、市場ニーズを背景に、プロジェクトは形を変えながらも継続していくだろう」との見方を示した。

写真 WA州商務省による同州概要に関するブリーフィング(ジェトロ撮影)

WA州商務省による同州概要に関するブリーフィング(ジェトロ撮影)

シアトル港では、港湾の脱炭素化に向けて、今後検討を進めたい重点分野として、荷役機械とドレージトラック(注1)の動力源の水素燃料電池化や、グリーン水素由来の船舶燃料〔e-メタノールや合成燃料(e-fuel)〕への転換が紹介された。すでに韓国との間では、2027年までにe-メタノール燃料船舶の導入を目指すプロジェクト「グリーンシッピング・コリドー」が進められている。

2日目は、持続可能な航空燃料(SAF)の普及促進と技術開発に取り組む世界初のイニシアチブ「SAF研究開発センター(注2)」と、グリーン水素・再生可能燃料に特化したイノベーションクラスター「CHARGE」のそれぞれから、事業説明を受けた。CHARGEは、ビジネスマッチング、ウェビナーや報告による情報提供、人材育成を通じて、州内の水素分野のプロジェクト事業化を支援している。

その他、トラックメーカーのパッカー(米国)、水素航空機の開発を手掛けるゼロ・アヴィア(米国)の工場も視察した。燃料電池システムや水素エンジンの製造現場を間近で見る貴重な機会となり、参加者からは水素の価格設定や開発技術の動向、認証制度など多岐にわたる質問があがった。

参加者からは、「自社技術の展開を見いだすことができた」「今後のビジネスにつながるような交流を持つことができた」との声が聞かれた。

(注1)海上輸送で使うコンテナを、港で開梱(かいこん)せずに、そのまま目的地まで陸上輸送する

(注2)同センターは、米国航空機製造大手ボーイングの組立工場のあるスノホミッシュ郡に拠点を置く。

(小林努、山根夏実)

(米国)

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