EVインフラ資金を巡り全米16州がトランプ政権を提訴
(米国)
ニューヨーク発
2025年12月18日
カリフォルニア州やニューヨーク州をはじめとする全米16州(注)とコロンビア特別区(以下、16州など)は12月16日、連邦議会で承認された電気自動車(EV)の充電インフラに対する助成をトランプ政権が違法に停止したとして連邦政府を提訴
した。
訴状によると、米国運輸省(DOT)と連邦高速道路局(FHWA)は、2021年にバイデン政権下で成立したインフラ投資・雇用法(IIJA)に基づき、議会の承認を経て5年間の予算枠として成立したEV充電インフラ向けの2つの助成プログラム「EV充電インフラ助成金(CFI)」(総額25億ドル)と「EV充電器の信頼性・アクセシビリティ促進プログラム助成金」(総額5億ドル)について、2025年初頭から執行を停止している。CFIでは18億ドル分の付与がすでに採択されたものの、その大部分が利用できない状態で、促進プログラムに関しても、一部採択が頓挫しているという。
両助成金は、いずれも州・地方自治体がEV充電ネットワークを全国規模で構築・改善するための重要な支援策として位置づけられ、気候変動対策や交通インフラの現代化、関連産業の雇用創出が想定されていた。16州などは、今回の資金執行の停止は、連邦議会に付与された予算歳出の権限(power of the purse)を侵害し、政府機関が法令に基づく執行義務を放棄しているとして、違法性を主張している。
訴状提出にあたり、ニューヨーク州のレティシア・ジェイム司法長官は「現政権は、本来差し止める権利のない数十億ドルもの資金を凍結することで、議会をないがしろにしようとしている」と批判した。同州では、約1,000基の充電器設置や関連する人材育成プログラムに充てられる予定だった約1,500万ドルのCFI助成金が停止されており、すでに連邦要件を満たして工事準備が進んでいたプロジェクトでさえ、頓挫していると指摘した。また、オレゴン州のダン・レイフィールド司法長官も「プロジェクトの遅延は、充電ステーションだけでなく、雇用、サプライチェーン、州内の事業コストにも影響を及ぼす。連邦政府が州経済と労働者コミュニティを支える投資を停止することで、オレゴン州が不利益を被るべきではない」としている。訴状によれば、原告は裁判所に対し、(1)助成金停止措置は、憲法、IIJAおよび米国行政手続き法(APA)に違反すると宣言すること、(2)同様の予算執行妨害を恒久的に禁じること、(3)助成金凍結の速やかな停止と2026年度の未払い7億ドルを含め、該当する歳出予算が失効する前に全額の支出義務を強制する命令状を発行すること、などを要求している。
充電インフラに関しては、これまでIIJAに基づき、総額50億ドルの「国家電気自動車(EV)インフラプログラム(NEVIフォーミュラプログラム)」による急速充電設備の整備も進められてきた。同プログラムも一時的に政府によって停止されたが、裁判を経て2025年8月に再開した経緯がある(2025年8月13日記事参照)。今回の訴訟の行方にも注目が集まっている。
(注)アリゾナ、カリフォルニア、コロラド、デラウェア、イリノイ、メリーランド、マサチューセッツ、ミシガン、ニュージャージー、ニューヨーク、オレゴン、ロードアイランド、バーモント、ワシントン、ウィスコンシン各州およびコロンビア特別区(ワシントンDC)の司法長官、さらにペンシルベニア州知事が加わっている。
(大原典子)
(米国)
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