関税など貿易制限措置の影響受ける世界輸入、前年同期比4倍増に

(世界)

調査部国際経済課

2025年12月09日

WTOは12月2日、2025年10月中旬までの1年間で導入された、新たな関税を含む貿易制限措置(注)の影響を受ける世界の財輸入額が、前年同期比で4倍増以上に拡大したとの推計を発表外部サイトへ、新しいウィンドウで開きますした。WTOが11月に発表した国際貿易環境の動向に関する年次レポート外部サイトへ、新しいウィンドウで開きますから抜粋したもので、10月中旬を起点に各年の貿易制限的措置の動向を詳説している。

WTOによれば、過去12カ月(2024年10月中旬~2025年10月中旬)で貿易制限措置が大幅に増加し、世界の財輸入額のうち11.1%(約2兆6,400億ドル)が影響を受けた(添付資料図参照)。対象となる輸入額は、前述のとおり前年同期と比べ4.3倍に拡大し、過去15年でも最も高い水準だった。こうした貿易制限措置は広範かつ多様な製品を対象としたが、影響を受けた主な品目としてWTOは、輸送機器・同部品(HS87)、一般機械(HS84)、電気機器(HS85)、精密機器(HS90)を挙げた。

WTOのンゴジ・オコンジョ=イウェアラ事務局長は、「(貿易制限措置の影響を受ける輸入額は)わずか1年前の6,110億ドルから大幅に増加した」「この急激な増加は、2025年初からみられる保護主義の高まりを反映したもの。世界輸入の19.7%が、2009年以降に累積された貿易制限措置の影響を受けている」と指摘した(貿易政策検討機関における事務局長発言PDFファイル(外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます))。

貿易促進も増加、対話を追求する加盟国

一方でWTOは、加盟国が同期間に、輸入および輸出に関連した331件の貿易促進措置を導入したことも明らにした。対象となる貿易額は、前回報告の1.5倍に当たる約2兆900億ドルだった。また、アンチダンピングなど貿易救済措置の調査開始件数は月平均32.3件と、2024年のピーク(37.3件)をわずかに下回った。サービス分野でも、124件の新たな措置が導入され、多くは貿易促進や規制整備を目的とするものだった。オコンジョ事務局長は、「国境を越えた貿易の円滑な流れを維持することに、加盟国が引き続き価値を見いだしている」と分析した。

なおWTOは、世界の財貿易量(輸出入平均)の伸び率を、2025年は2.4%、2026年は0.5%と予測している(2025年10月16日記事参照)。2025年前半までは、米国の追加関税発動を前にした駆け込み輸入、人工知能(AI)関連製品への強い需要、途上国を中心としたWTO加盟国における継続的な貿易拡大が下支えするも、後半以降には伸びが大きく鈍化する見通しだ。

(注)WTOは、アンチダンピングなどの貿易救済措置と、関税を含むその他の措置とを分けて集計している。本稿における措置は後者を指す。

(吾郷伊都子)

(世界)

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