USMCAの労働協議会開催、見直しを控えメキシコの労働改革が議題に
(米国、メキシコ、カナダ)
ニューヨーク発
2025年12月18日
米国、メキシコ、およびカナダ政府は12月11日、カナダのオタワで米国・メキシコ・カナダ協定(USMCA)の労働協議会を開催した。USMCAの労働章(第23章)には、メキシコが自国の労働政策について大幅な改革を実施するなどの規定が盛り込まれており、その実施状況を確認するため、2年ごとに同協議会を開催することが義務付けられている。
米通商専門誌インサイドUSトレード(12月11日)によると、今回の労働協議会は、2026年7月に予定されているUSMCA見直しに向け、労働組合などによる圧力が高まる中で実施された(2025年12月15日記事参照)。同協議会の冒頭、USMCA実施法により設立された独立労働顧問パネルを率いる全米鉄鋼労働組合(USW)のベンジャミン・デイビス氏によって、同パネルが作成した報告書が概説された。デイビス氏は、メキシコの改革における労働協約(CBA:Collective Bargaining Agreement)プロセスの欠陥や労働の権利を侵害する企業への制裁措置の欠如などを指摘した。また、メキシコ国内の労働改革を効果的に実施するには、メキシコの低賃金を支持する既得権益が存在することも含め、対応する必要があると主張した。
これらの批判に対し、メキシコ労働社会福祉省のガブリエル・アレハンドロ・タマリス・サンチェス氏は、2018年以降、メキシコの最低賃金がインフレ率を上回る水準で引き上げられていると主張するとともに、労働者の権利侵害を解決すべく米国と協力し、「事業所特定の迅速な労働問題対応メカニズム(RRM、注1)」の条件に従ってきた実績を強調した。
米通商代表部(USTR)代表補(労働問題担当)のケイティ・マストマン氏は、米国がこれまで43回にわたりRRMを発動してきたと述べ、「そのうち27社が関わる解決済みの事例では、同メカニズムをとおし労働者への未払金や福利厚生として600万ドル以上が支払われ、不当な解雇からの復職、自由かつ公正な労働組合選挙の実施や新たな団体交渉協定の締結などが実施された」と主張し、「今後もRRMを活用していくつもりだ」と付け加えた。
米国のRRMの運用に関しては、請願を受け付ける基準に関する透明性の欠如について多くの懸念が寄せられている。その点に関し、マストマン氏は、USTRと労働省が一般市民からの意見を取り入れつつ作成したRRMに関する手続きガイドライン
(注2)がRRMの仕組みや、どのように事例を評価し、対処しているかについて示す窓のような機能を果たしていると述べた。これに対し、タマリス・サンチェス氏は、メキシコ政府が同ガイドラインを改定する計画があると明かし、RRMが最も効果的に機能するために、より詳細に記述したものになると述べた。
(注1)締約国内に所在する企業の事業所単位で労働権侵害の有無を判定する手続きで、労働権侵害の事実が確認されれば、USMCAの特恵措置の停止などの罰則が適用され得る。ただし、米国・カナダ間にはRRMは設けられていない。
(注2)2023年6月22日付官報
の付表(Annex)を参照。
(久峨喜美子)
(米国、メキシコ、カナダ)
ビジネス短信 19b49de57f71ca17




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