欧州委、AI法の高リスクシステムに関する適用延期を提案

(EU)

調査部欧州課

2025年12月01日

欧州委員会は11月19日、人工知能(AI)を包括的に規制する規則(AI法、2024年5月27日記事参照)のうち、高リスクAIシステムに関する規則の適用時期を、2027年12月まで最長で16カ月延期する方針を発表した(プレスリリース外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます)。AI法は2024年8月1日に施行し、その適用は段階的に行われ、全ての規則は2027年8月2日までに適用されると発表されていた。「禁止されるAIシステム(2025年2月13日記事参照)」に対する規則は既に2025年2月に適用され、欧州委は7月に「汎用(はんよう)AIの行動規範(General-Purpose AI Code of Practice)」(2025年7月15日記事参照)を公開した。

高リスクAIシステムを規制する規則を含む大部分の規則は、2026年8月2日または2027年8月2日から適用開始予定だった。これらの規則には、データガバナンス、透明性、文書化、人間の監督、堅牢性に関する詳細な要件が含まれる。

欧州委は、高リスクAIシステムに関する規則を適用させるには、標準化された技術仕様・ガイダンスの整備が必要とした。また、同日に発表されたデジタル・オムニバス法案外部サイトへ、新しいウィンドウで開きますで提案されたAI、サイバーセキュリティー、データに関するルールの簡素化と、高リスクAIシステムに関する規則の適用開始を連動させるとした。高リスクAIシステムに関する規則は、適用開始まで最長16カ月の調整期間を有して、必要な基準を含む支援ツールを整備する。これにより、企業は必要な支援ツールを確保した上で義務を履行できるようなる。これらの取り組みは、欧州がAI大陸としての地位を強化し、安全にAIファーストのアプローチを推進することを可能にするとした。

今回、延期の対象となる高リスクAIシステムには、バイオメトリクス(遠隔生体認証、感情認識など)、重要インフラ(交通、電気・ガス・水供給の安全管理など)、教育(入学選考、学習評価など)、雇用・労務管理、法執行・司法、移民管理、社会保障・公共サービスなどがある。またこれ以外でも、AIシステムが製品の安全部品として使用される、またはAIシステム自体が製品であり、かつその製品がEU整合法令(注)の対象として第三者適合性評価を受けることが要求される場合、そのAIシステムは高リスクとみなされる。

今回のAI法の施行延期およびデジタル・オムニバス法案の提案は今後、EU理事会(閣僚理事会)と欧州議会によって審議される。

(注)EU域内で製品の安全性や性能に関する共通基準を定める法令群のこと。

(坂本裕司)

(EU)

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