オープンAI「スターゲート」計画、世界のDRAM需給に波及

(米国)

サンフランシスコ発

2025年12月18日

生成人工知能(AI)向けデータセンター投資の拡大に伴い、パソコン(PC)、ゲーム機、スマートフォン向けに使用されるDRAMおよびNAND型フラッシュメモリの供給不足が深刻化している。台湾の市場調査会社トレンドフォースによると、主要DRAMメーカーの在庫水準は2024年末の13~17週間から、2025年10月には2~4週間へと大きく減少した。英語圏(特に米国)のオンラインテクノロジー専門メディア「トムズハードウエア」によれば、主要DRAMの16ギガビットDDR5(注1)の平均スポット価格は9月20日時点では「DRAMeXchange(注2)」で6.84ドルだったが、11月19日には24.83ドルに上昇し、さらに12月1日には27.2ドルと高騰が続いている(「トムズハードウエア」12月1日)。

複数のメディアによれば、背景には、AI向け高帯域メモリ(HBM、注3)の需要の急増があるという。韓国の半導体メーカーのSKハイニックスは2026年分のHBMがすでに完売したと述べ、同じく韓国のサムスン電子もサーバー向けDRAM契約価格を9月比で最大60%引き上げた。米国のマイクロン(本社:アイダホ州ボイジー)は2026年のHBMの大半をAI企業向けに割り当てる方針を示し、DDR4(注4)やLPDDR4(注5)の出荷終了を顧客に通知した。

さらに、供給逼迫を強める要因として、オープンAIの大規模AIデータセンター「スターゲート」プロジェクト(注6)が挙げられている。ロイターによれば、オープンAIはサムスン電子およびSKハイニックスと月90万枚規模のDRAMウエハー供給について協議しており、SKグループは「これは世界のHBM生産量の約2倍に相当する」と述べたという(「ロイター」10月1日)。また、グーグル、マイクロソフト、アマゾン、メタがマイクロンに対し、事実上の上限なしのメモリ発注を打診したという。

米国格付け会社のS&Pグローバル・レーティングは、メモリの供給逼迫は2026年まで続く可能性が高く、正常化は2027~2028年ごろと予測している。また、メモリメーカー〔サムスン電子、SKハイニックス、マイクロン、キオクシア(日本)など〕にとっては、収益増加につながるとの見方を示す。米国のテクノロジー専門メディア「ザ・ヴァージ」によれば、世界のDRAM市場はサムスン電子、SKハイニックス、マイクロンの3社で93%を占有しており、アナリストは、AI向け市場へ生産リソースが振り向けられることで、PCや一般消費者向けDRAMの供給が逼迫していると指摘する。メモリ価格の高騰はPCやスマートフォン、自動車など幅広い産業に波及し、サプライチェーン全体のコスト構造に影響を与える可能性が高い(「ザ・ヴァージ」12月9日)。

(注1)DDR5は、パソコン(PC)やサーバー向けメインメモリの最新規格で、消費者向けから企業向けまで幅広い用途で採用されている。

(注2)トレンドフォースが運営する半導体メモリの価格情報プラットフォーム。

(注3)複数のDRAMチップを垂直に積層し、超高速なデータ転送を可能にする3D積層構造を持つ高帯域メモリ。AI学習、データセンター向けに広く採用されている。

(注4)DDR5の前世代にあたるDRAM規格で、PCから企業向けサーバーまで幅広い用途で採用されてきた。

(注5)LPDDR4は低消費電力型DRAMで、主にスマートフォン、タブレット、ノートPCなどのモバイル機器に採用されてきた。

(注6)オープンAIが進める大規模AIデータセンター構築計画。AI学習に必要な膨大なメモリを確保するため、サムスン電子やSKハイニックスとDRAMウエハーの大量供給契約を交渉している。米国以外にも、韓国、日本、オーストラリア、欧州、アラブ首長国連邦(UAE)(2025年5月30日記事参照)でも展開を計画中。

(松井美樹)

(米国)

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