欧州委の研究機関、農村部での起業促進支援はEUの競争力強化に貢献と助言

(EU)

ブリュッセル発

2025年11月11日

欧州委員会の共同研究センター(JRC)は10月29日、農村部(低開発地域)での知識集約型産業の起業支援はEUの成長の原動力になり得ると分析した報告書を発表した(プレスリリース外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます)。

農村部の方が、スタートアップが活躍する産業があり、例えば農村部のスタートアップのうち農業・食品分野が占める割合は8.6%で、農村部以外における同分野の割合5.4%より高かった。運輸8.1%(農村部以外6.0%)、エネルギー7.3%(同5.2%)、ロボット工学4.8%(同2.4%)、半導体3.3%(同1.9%)も同様だった。より広い空間や天然資源への近接性を必要とする産業は、都市部とは異なるエコシステムを形成していると分析。一方、集積効果や企業活動に必要なインフラを要するメディア、マーケティング、フィンテック、ヘルスケア産業は、都市部、町や郊外に集中した。依然として2024年のEUのスタートアップおよびスタートアップ・エコシステム(注)の拠点は、76%が都市部、18%が町や郊外で、農村部は6%にとどまっている。

スタートアップが人口に比例し均等に分布していると仮定した場合に予想される起業率を1とした場合、農村部における起業率は、EU全体で0.24にとどまっている。しかし、パリ北部のバル・ドワーズ県(2.0)やドイツ南部のバーデン・ビュルテンベルク州のアルプ・ドナウ市(1.5)、イタリア北部のインペリア県(1.2)などの一部は、平均を大きく上回った。

また、従業員を雇用して活動している企業の総数のうち、従業員を1人以上雇って新規に設立された企業が占める割合は、2022年にはEU平均が9.4%だった。農村部の平均は8.7%だったが、人口15万~80万人のEUの地方区画(NUTS 3)のうち28%は平均を上回り、そのほとんどがエストニア、ルーマニア、ハンガリー、クロアチア、アイルランド、マルタ、ポーランド、フィンランド、スペイン南部に位置する。レーネ県(エストニア)は17%、ジュルジュ県(ルーマニア、ブカレスト南部)は16.2%、ハンガリー、クロアチア、ポーランド、フィンランドの地方は11%超となり、起業家の活力の高さを示す結果となった。

報告では、都市部と農村部の両方でバランスの取れた起業が促進される重要性を強調。詳細な地域データに基づく地域に根差した統合的な公共政策は、イノベーションを支えるエコシステムの実現を促すとし、前提条件として次を提言した。

  • 地方経済のニーズに即した技能開発プログラムへの投資
  • 農村部の中小企業やスタートアップ向けの個別対応が可能な金融商品を通じた、資金調達の改善
  • 行政手続きの簡素化やデジタル技術の活用促進を通じ企業負担を軽減し、地方での起業と事業拡大を容易にする
  • デジタルインフラ、交通、施設の強化
  • 起業家教育や文化の促進、イノベーション・ネットワーキングの促進

(注)ベンチャーキャピタルやインキュベーターのような、投資や買収、支援を行うステークホルダーを含む。

(大中登紀子)

(EU)

ビジネス短信 f8b7667c1e2057f8