米2州の知事選とNY市長選で民主党候補が勝利、経済的課題への対応やトランプ政権への批判票が影響

米国で11月4日に、ニュージャージー（NJ）州およびバージニア（VA）州知事選挙、ニューヨーク（NY）市長選挙が行われ、いずれも民主党候補が勝利した。

NY市長選では、民主党候補のゾーラン・マムダニ氏（NY州議会議員）が、無所属のアンドリュー・クオモ前NY州知事（無所属）、カーティス・スリワ氏（共和党）らを破って勝利した。マムダニ氏は50％以上の得票率を得た。民主社会主義者を自称するマムダニ氏は、家賃規制付きアパートに関する賃料引き上げの凍結、公営食料品店の開設、市営の無料バスの導入、保育料無償化などの生活費対策を主眼に置くとともに、財源として富裕層・大企業増税を掲げるなどラディカル・レフト的な政策を前面に押し出して選挙戦を展開した（マムダニ氏選挙サイト参照）。マムダニ氏の政策に対しては、民主党の中道左派の一部やウォール街、ドナルド・トランプ大統領など複数の異なる立場から批判的な意見（注1）が出たものの、近年の大統領選や上下院選などにおいて民主党が苦戦していた労働者層や若年層、ジェントリフィケーション（注2）に不満を高めていた有色人種などにも訴求し、支持を伸ばした。

VA州知事選では、民主党候補のアビゲール・スパンバーガー氏（元連邦下院議員）が共和党候補ウィンサム・アールシアーズ氏（副知事）を約15ポイントの差をつけて破った。同州は2022年から、共和党が知事ポストを占めてきたが、3年ぶりに民主党が奪還する。また、同日行われた副知事選、司法長官選、州議会選でも民主党候補が勝利した。スパンバーガー氏は、元CIA職員の経歴を持つ中道左派。選挙期間中は主に経済問題に焦点を当て、トランプ政権の関税政策に伴う物価上昇や連邦職員の削減に伴う失業率の上昇（注3）などを批判するとともに、「アフォーダブル・バージニア・プラン」として医薬品や医療保険へのアクセスの改善、住宅価格高騰への対応などを柱に据えて選挙戦を展開した。トランプ氏の経済政策のマイナスの影響が特に強く表れている、同州の経済状況が結果を大きく左右したことがうかがえる。

NJ州知事選では、民主党候補のマイキー・シェリル氏（連邦下院議員）が共和党候補のジャック・チャタレリ氏（元NJ州下院院内総務）を10ポイント以上の差をつけて破った。事前の世論調査では接戦が予想されていた（2025年10月29日記事参照）が、すべての地区において2024年大統領選におけるハリス元副大統領の得票率を上回る結果となった。元海軍パイロットのシェリル氏も中道左派とされ、スパンバーガー氏と同様に、主として住宅価格や電気代、医療コストの削減などを柱に据えつつ、トランプ政権に対する批判を主軸に選挙戦を展開した（シェリル氏選挙サイト参照）。

注目度の高い3つの地方選で民主党候補が勝利したが、2026年11月の中間選挙に向けて民主党がどのようなメッセージを発していくのかは依然として不透明だ（注4）。今後、民主党がどのような方向性を打ち出していくのか注目される。

（注1）例えば、民主党の代表的な中道左派であるチャック・シューマー上院少数党院内総務（NY州）は、マムダニ氏を支持するか否かについて最後まで言及を控えた。また、一部の民主党議員は、マムダニ氏の一部の政策について極端すぎるとして否定的な見解を示している。ウォール街からは、家賃規制に対する懸念などが示されるとともに、クオモ氏に対して2,500万ドルの寄付などが行われた。トランプ氏は、マムダニ氏を共産主義者と呼称し、同氏が当選した場合には連邦資金の拠出を制限する考えを示すとともに、自身の支持者に対してクオモ氏に投票するよう呼びかけを行った。

（注2）再開発などに伴う住居費など生活費の高騰によって、低所得者層などが元いた地域に住むことができなくなる現象のこと。

（注3）VA州では、トランプ政権発足以降、失業率が0.6ポイント上昇。3カ月移動平均の数値が過去12カ月における最低値よりも0.5ポイント以上上昇すると景気後退のサインであるとするサーム・ルールにも該当。

（注4）スパンバーガー氏やシェリル氏が掲げた政策は、2024年大統領選挙において民主党が掲げた綱領（2024年8月20日記事参照）に沿ったもので目新しさには乏しく、勝利はトランプ政権への批判を反映した結果という側面が強い。他方、NY市長選では、よりラディカル・レフト的な政策を掲げたマムダニ氏が、これまで民主党が取りこぼしていた層の支持を獲得して勝利したものの、政策の実現可能性や、他地域での展開を疑問視する声もある。

（加藤翔一）