米ウィスコンシン州、広がる産学官連携のバイオエコシステム

(米国、日本)

シカゴ発

2025年11月14日

ジェトロは11月5~7日、米国ウィスコンシン州にバイオ関連分野のビジネス環境視察ミッションを派遣した。同州経済開発公社(WEDC)とウィスコンシン日米協会の協力を得て実施し、医療や製薬、商社、金融などの日本企業19社23人が参加した。米国のバイオ市場は2033年に約1兆8,000億ドル規模への拡大が見込まれる中、同州は連邦政府指定の「バイオヘルス・テックハブ」(2024年7月4日記事参照)として、大学や企業、行政が有機的に連携するエコシステムを形成している。

同州のマディソンやミルウォーキーでは、創薬、人工知能(AI)解析、医療機器などを横断する協働基盤が発展している。約4,900万ドルの連邦支援を活用する「ウィスコンシン・バイオヘルス・テックハブ」では、研究成果の事業化や人材育成を推進する。WEDC主催のウェルカムレセプションでキャシー・ブルメンフェルド州官房長官は「日本企業との連携を通じたライフサイエンス産業の拡大に期待する」と述べた。

ウィスコンシン大学マディソン校では、医学・公衆衛生学部と、ウィスコンシン同窓研究財団(WARF)、大学リサーチパークが連携し、研究と特許、事業化支援を一体的に展開している。医学と公衆衛生を統合した教育体制の下、起業支援プログラム「イスマスプロジェクト(Isthmus Project)」が産学連携を促進する。WARFは年間約400件の発明申告を受理し、毎年55件前後の商業ライセンス契約を締結しており、約31億ドル規模の運用資産を持つ米国屈指の大学系知財モデルだ。同大学でのプログラムでは、富士フイルム・セルラー・ダイナミクス(FCDI)の長谷川知行社長が登壇し、自社の幹細胞製造・供給事業やCDMO事業を紹介した。FCDIはWARF発の大学技術を基盤に設立され、現在は富士フイルムグループの一員として、マディソンを拠点に再生医療関連のグローバル展開を進めている。大学発技術が日系企業の国際事業に発展した好例として注目された。

写真 ウィスコンシン大学マディソン校でジョーン・ガーネッティー産学連携室長のプレゼンテーション(ジェトロ撮影)

ウィスコンシン大学マディソン校でジョーン・ガーネッティー産学連携室長のプレゼンテーション(ジェトロ撮影)

企業訪問では、イグザクト・サイエンシズ(Exact Sciences)、プロメガ(Promega)、GEヘルスケアの3社を視察した。イグザクト・サイエンシズでは、主力製品「コロガード(Cologuard)」による大腸がんスクリーニング事業を中心に、検体処理の自動化とUPSとの物流連携により、採取から8~10日で結果を返す体制を確立した。血液ベースの多がん種検査「キャンサーガード(CancerGuard)」を米国の医療機関メイヨークリニックと共同で開発しており、日本展開にも関心を示した。プロメガは、ライフサイエンス研究用の試薬・分析装置を製造する独立系バイオ企業で、売り上げの約12%を研究開発に投じ、250人の研究者が分子生物学・細胞解析ツールを開発しており、科学者同士の国際的交流を促す研究文化を紹介した。GEヘルスケアでは、PET/CT装置(注)の製造現場を見学し、AI解析を組み込んだ次世代画像診断ソフトやリーン生産方式による工程改善など、製造と臨床技術の融合を確認した。

写真 イグザクト・サイエンシズを訪問したミッション団など(ジェトロ撮影)

イグザクト・サイエンシズを訪問したミッション団など(ジェトロ撮影)

ウィスコンシン医科大学では、年間4億ドル規模の研究活動と1,200件超の臨床試験の取り組みが紹介され、創薬や細胞治療、画像医療の成果を産業化に橋渡しする「セラピューティック・アクセラレーター・プログラム(Therapeutic Accelerator Program)」が注目を集めた。参加者からは、「研究から製造までを一体化した産業構造を実感できた」「大学、企業、行政が横断的に連携するエコシステムは他州にない特徴」との声が多く寄せられた。ウィスコンシン州は基礎研究から実装までを結ぶ多層的な連携基盤を有し、今後の日系企業のパートナーシップ拡大に向けた有望地域として関心を集めている。

(注)PET(陽電子放出断層撮影)とCT(コンピュータ断層撮影)を組み合わせた画像診断装置で、代謝情報と解剖学的情報を同時に取得できる機器。

(八木颯斗、井上元太)

(米国、日本)

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