米国では所得10万ドル以上でも豊かな生活には不十分、世論調査

(米国)

ニューヨーク発

2025年11月20日

米世論調査会社ハリス・ポールは11月14日、高所得者層の財政状態に関する「所得パラドックス調査」(注1)を発表PDFファイル(外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます)した。それによると、米国民で年収10万ドル以上(注2)の約3人に1人が、経済的に困窮していると回答しており、かつて安定的な生活を送るために十分だと考えられていた所得層でも経済的不安を感じる人が増えている。

回答者のうち64%は、「年収10万ドル以上の収入はもはや富の証しではなく、生き残るための手段だ」とし、生活費を賄うだけの給料であって、余裕をもたらすものではないと回答した。また、52%が「年収10万ドル以上でも豊かな生活を象徴する『アメリカンドリーム』は実現不可能だ」とし、多くが将来に対する強い不安を抱いている現状を示している。また、快適に中流階級の生活を送るために必要な年収に関しての質問では、20万ドル以上と回答した人の割合が、10万ドル以上の所得層では50%、20万ドル以上の所得層では75%を占めた(注3)。

今回の調査では、年収10万ドル以上の層の4分の3が、ポイントを獲得するためではなく、現金が不足したために過去3カ月間にクレジットカードに頼らざるを得なかったと回答したほか、生活費をやりくりするために副業を始めた(35%)、私物を売却した(26%)、医療費を削減することで対応している(28%)、との回答も目立った。

ハリス・ポールの最高戦略責任者兼未来学者のリビー・ロドニー氏は、「かつては年収が10万ドル以上を超えると、経済的な安定の証しと見なされていた」「しかし今では、それは生き延びていること、生存モードにあることの証しに過ぎないと捉えられている」と指摘した。

年収10万ドル以上の過半が経済状況の悪化を予想

経済誌「エコノミスト」と調査会社ユーガブが2025年11月に実施した世論調査外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます(注4)によれば、年収10万ドル以上の層でも個人の経済状況が1年前から悪化したと32%が回答した。また、57%が米国の経済状況は今後悪化すると予想している。

(注1)実施時期は2025年7月31日~8月2日。対象者は米国の成人2,109人(年収10万ドル以上の728人が含まれ、うち280人は年収20万ドル以上)。

(注2)米国勢調査局(CENSUS)が公表しているデータPDFファイル(外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます)では、所得がこの水準を上回っているのは上位10%層のみ。ムーディーズ・アナリティクスのチーフエコノミスト、マーク・ザンディ氏によると、上位10%の所得者が全消費支出の49%以上を占めており、これは過去数十年のデータで最高水準だと述べた。

(注3)所得10万ドル以上の層にとって家計を圧迫する支出項目で最も多かったのは、「食料品・生活必需品」との回答で36%だった。そのほか、「家賃・住宅ローンの支払い」(32%)、「健康保険・医療費」(31%)などの回答がそれぞれ3割以上となった。いずれも、2025年11月に行われた地方選挙(2025年11月6日記事参照)でそのアフォーダビリティ(手頃さ)が争点になった。

(注4)実施時期は2025年11月15~17日。対象者は全米の成人1,549人。

(加藤翔一、樫葉さくら)

(米国)

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