AIで進化する次世代ロボ、米スタンフォード大学ロボティクスセンター
(米国、日本)
サンフランシスコ発
2025年11月17日
日本の主要ロボティクス関連企業・スタートアップ企業10社は11月4日、在サンフランシスコ日本総領事館の呼びかけで、産学共同の可能性を視察するため、スタンフォード大学ロボティクスセンター(SRC)
を訪問した。案内役を務めたのは、ロボティクス研究の第一人者であり、バイオミメティクス(生物模倣工学、注1)や巧緻操作(注2)、触覚センシング(注3)の分野で知られるマーク・カトコスキー教授。教授は研究室を回りながら、「今や機械工学の学生でも、人工知能(AI)なしには研究が成り立たない時代だ」と語った。
SRCは「人と地球に変革的インパクトをもたらす技術開発」を目的とし、フィールドロボティクス(注4)、家庭用ロボティクス、医療用ロボティクス、働き方の未来、教育・文化の5分野を重点領域としている。多分野の研究者と企業が連携し、社会課題への応用や実証を通じ、次世代ロボティクス開発を進める。
(左)ロボットアームの実証現場、(右)施設内を見学する様子(ともにジェトロ撮影)
カトコスキー教授の研究は、AI・触覚・巧緻操作を組み合わせた「人間のように感じて動くロボット」に焦点をあてる。教授は、フライパンやヘラを使って料理するロボットのデモンストレーションを示し、「目を閉じてものをつかむとき、人は形や重さを『感じて』判断する。ロボットにも同じ能力を与えることが目標だ」と説明した。その一例として、フランス企業の研究者が開発した多軸力覚フィードバック(注5)装置を用い、人間の手の感覚をロボットに学習させる試みも紹介された。
医療分野では、磁力で血管内を移動して血栓を除去する微小ロボット、医者が遠隔地でも超音波診断を行えるAI搭載ロボット、手術支援ロボット「ダヴィンチ」の新しい制御手法など、多様な実証研究が進行している。
(左)深海探索ロボット「オーシャン・ワン」(右)手術ロボット「ダヴィンチ」(ともにジェトロ撮影)
また、火星のクレーターを探索するロボットや、山火事など森林災害時に、通信中継を担うプロペラなしの円筒型ドローンも紹介された。さらに、深海を探索するロボット「オーシャン・ワン」や海藻再生を支援する小型水中ロボット「アクアボット」なども紹介された。SRC内で、水中実験を行うための水槽設備も新たに整備が進められている。
カトコスキー教授は「日本のロボティクスは非常に高い技術力を持つ。ぜひ共同実証や試作段階から一緒に取り組みたい」と語り、日本企業との連携拡大に期待を示した。また、参加した日系スタートアップ関係者から、技術相談や共同研究の可能性について、質問や意見交換がなされた。
(注1)生物がもっている性質や特徴を分析・模倣し、製品作りに役立てること。
(注2)人間のように手先や指先を操って、不定形な物体の扱いや、接触を伴う複雑な組み立て作業など可能にする技術。
(注3)人間の手などに備わっている触覚が感じ取る情報を検出し電気信号に変換すること。
(注4)野外や自然環境など、構造化されていない現場で作業を行うロボット技術の分野。
(注5)複数の方向(軸)に働く力やそのトルク(回転する力の大きさ)を検知し、その情報を操作者に返す仕組み。
(松井美樹)
(米国、日本)
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