シンガポール中銀(MAS)の長官演説、AIとトークン化が次世代金融を変革へ
(シンガポール)
シンガポール発
2025年11月19日
シンガポール通貨金融庁(MAS、中央銀行に相当)のチア・ダージウン長官は11月13日、向こう10年間のフィンテック分野を変革する主要な技術は、人工知能(AI)と金融資産のトークン化(注1)だとの認識を示した。同月12日から14日まで開催されたMASなどが主催する大型フィンテック国際会議・展示会「シンガポール・フィンテック・フェスティバル(SFF)2025」の基調演説で述べた。
2025年で10回目の開催となったSFFのテーマは「向こう10年の金融のための技術ブループリント」。チア長官は演説で、これまでに30以上の金融機関が、国内外向けのAIソリューション開発センターをシンガポールに設置したと指摘。さらなるセンター設置を歓迎すると述べた。また、同長官は、金融機関がテック事業や研究所と共に、AIを用いて金融業界共通の課題解決に取り組む新イニシアチブ「ビルドフィンAI(BuildFin.ai)」の立ち上げを発表した。第1弾として、シンガポール特有の英語「シングリッシュ」の音声を文字起こしするツールの開発に着手する。
このほか、MASは金融業界に特化した「AIリスク管理に関するガイドライン」に関する意見募集を開始した。締め切りは2026年1月末。さらに、地場銀行や外資銀行などが参画するコンソーシアム「プロジェクト・マインドフォージ(Project MindForge)」は同日、金融機関向けのAIリスク管理のハンドブック
を発表した。
また、MASは現在、法定通貨や金など資産に連動するよう設計された暗号資産の一種「ステーブルコイン」に関する規制枠組みを最終決定し、法案を策定する予定だ。さらにチア長官は演説で、国内の地場銀行であるDBS、OCBC、UOBの3行が、大口決済向けに初めて発行されたホールセール型中央銀行デジタル通貨(CBDC、注2)を用いた、銀行間の翌日物貸出取引の試験に成功したことを明らかにした。MASは次の段階として、CBDCを用いてトークン化した短期負債証券(MASビル)を決済する実験を行う方針だ。
SFFで基調演説するチア・ダージウンMAS長官(11月13日、ジェトロ撮影)
2025年のSFFには約600社・団体が出展し、約6万5000人が来場した。日本からは、フィンテック協会(Fintech協会)が、日本のフィンテック分野のスタートアップと共に出展した。
(注1)トークン化とは、資産のデジタルな表章「トークン」を作り出し、分散型台帳に置くプロセスを指す。
(注2)CBDCとは、中央銀行が発行する法定通貨をデジタル化したもの。ホールセール型CBDCは、銀行や認定された金融機関の間で銀行間決済や証券取引に使用される。
(本田智津絵)
(シンガポール)
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