米年末商戦、売上高は初の1兆ドル台に達する見通し、所得格差の二極化が進行
(米国)
ニューヨーク発
2025年11月11日
全米小売業協会(NRF)は11月6日、2025年の年末商戦期間(11~12月、注)の小売売上高が前年同期比で3.7~4.2%増加すると発表
した。初めて1兆ドルを超え、過去最高となる1兆100億ドルから1兆200億ドルに達すると予測した。インフレの影響で売上高は前年を上回る見込みだが、2024年の伸び率(4.3%)より鈍化すると予想されている。
今回の発表について、NRFのマシュー・シェイ会長兼最高経営責任者(CEO)は同日の記者との電話会見で、消費者心理の低迷や、連邦政府閉鎖の長期化、断続的な関税の導入に加え、インフレによる価格への敏感性が高まる中でも、消費者が予想に反して支出を継続していると述べた。
米国の消費支出は総じて堅調に推移しているが、所得格差の二極化が進行している状況が浮き彫りになっている。不動産や株価の上昇などで資産価値を高めている高所得者層が消費を下支えしている。NRFのチーフエコノミスト、マーク・マシューズ氏は電話会見で、節約志向を強めている低所得層の間では、旅行や外食などサービス分野への支出を控えており、生活必需品へのシフトが強まっている傾向を指摘した。
連邦政府閉鎖の長期化が米国史上最長の停止となっており、2025年のホリデーシーズンに不確実性の影をもたらしている。政府閉鎖により連邦職員の給与が支払われず、全米で4,000万人もの低所得世帯が利用する食料支援プログラム(SNAP)の給付金支給の遅延が生じている。現在、一部の州では裁判所命令に基づき給付金を支給しているが、状況は依然として不安定なままで、年末商戦が本格的に開始する中、小売業者の収益減につながる可能性が示唆されている。例えば、小売り最大手ウォルマートでは、SNAP対象者が支出の約4分の1を同店で費やしているとされ、低所得者層が売り上げの一定数を占めていることから、同社の業績にも一定程度の影響が想定される。
米経済先行き不透明感から、労働市場が軟化する見方は顕著で、NRFによると、同期間の小売業者による臨時雇用者数は26万5,000人~36万5,000人と、2024年の44万2,000人を大幅に下回り、過去15年間の低水準に落ち込むと見込まれている。マシューズ氏は、一部の小売業者が10月のセールイベントのために季節労働者を早期に雇用した可能性はあるが、企業は関税によるコスト増に対応するため支出を抑制する傾向が強いと述べた。また、同氏は、ベビーブーム世代の退職やトランプ政権の移民政策強化など、人口動態や政策の変化により、米国経済は以前と同水準の雇用創出を必要としていないと述べた。現在は、人工知能(AI)への投資の急増は「経済にとって大きな恩恵」となっているものの、「それがいくつかの亀裂を覆い隠している可能性もある」と付け加えた。
(注)毎年11月第4木曜日の感謝祭(Thanksgiving Day)からクリスマスまで続く。前後の週末には長めの休暇を取る人も多く、「ホリデーシーズン」とも呼ばれ、感謝祭翌日には日本でも知られるようになったブラックフライデーセール(値下げによる売り上げ増で企業が黒字になるというのが由来)が各小売店で展開される。
(樫葉さくら)
(米国)
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