エネルギー安全保障は最優先課題、AIが電力需要を拡大、IEA見通し

(世界)

調査部国際経済課

2025年11月19日

国際エネルギー機関(IEA)は11月12日、2025年版の「世界エネルギー見通し外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます(World Energy Outlook)」を発表した(11月12日付IEAプレスリリース外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます)。本見通しは、政策や最終目標の達成、および技術的問題やリスクの克服について、いくつかの異なる前提から想定されたシナリオを基に分析される。変動する世界の中で、各国にとってエネルギー安全保障は最優先課題となるとの見方が示されている。

今回の見通しでは、新型コロナ禍で政策の不透明性が増した中で、一時的に発表が見合わせられていた「現行政策シナリオ(CPS)」が再掲されている。CPSによると、世界の石油・ガス需要は2050年まで拡大する可能性がある。CPSは現在実施されている政策に基づいており、3つの主要シナリオ(注)のうち、気候変動対策が最も緩やかなシナリオと言える。

全シナリオに共通する傾向の1つとして、今後数十年にわたり、世界のエネルギーサービス需要が増大することが指摘されている。具体的には、モビリティ需要、暖房・冷房・照明のような家庭用・産業用需要、そしてデータや人工知能(AI)関連需要の高まりだ。

国・地域別では、特に、インドと東南アジアが主なプレーヤーとなり、中東、アフリカ、ラテンアメリカの国々を加えた新興経済国グループが、今後数年間のエネルギー市場の動向にますます影響を与えていくと説明する。

同見通しでは、エネルギー安全保障上のリスクの1つとして、過度な地域的集中による重要鉱物サプライチェーンの脆弱(ぜいじゃく)性にも触れられている。電力網、バッテリー、AIチップ、ジェットエンジンなどに不可欠なニッケルやコバルトなどのエネルギー関連戦略鉱物20種のうち19種において、単一の国が精製を独占しており、平均市場シェアは約70%に達する。この傾向を逆転させるには時間がかかり、政府による、より強力な対策が求められる。

電力供給と機器・設備の電化に対する投資は、既に世界のエネルギー投資の半分を占めている。前回の見通しで、IEAは既に「電気の時代」への移行を指摘していた。AIの影響もあって、電力需要の伸びは加速しており、石炭、ガス、再生可能エネルギー、原子力が追加供給源として競合している。IEAのファティ・ビロル事務局長は「電力消費の増加をみると、過去10年の傾向とは異なり、もはや新興国や開発途上国に限定されない。データセンターとAIによる急激な需要拡大が、先進国経済における電力使用量の増加も後押ししている」と述べた。

(注)今回の見通しは、主に現行政策シナリオ(CPS)、各国が表明済みの具体的政策に基づいた公表政策シナリオ(STEPS)および2025年までにネットゼロが達成されるシナリオの3つに基づき分析された。

(板谷幸歩)

(世界)

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