英国政府、難民保護・送還政策の厳格化を発表

(英国、デンマーク、アンゴラ、コンゴ民主共和国、ナミビア)

ロンドン発

2025年11月26日

英国政府は11月17日、難民保護・送還制度の改正案に関する声明を発表外部サイトへ、新しいウィンドウで開きますした。

本声明は、(1)英国への難民流入数の抑制、(2)合法的な滞在資格を持たない人の送還促進、という2点に重点を置いている。

背景として、近年、数十万人規模の移民が庇護(ひご)を求めて入国している点が挙げられる。2024年、欧州全体の難民申請件数が前年比13%減少した一方で、英国は18%増となり過去最高を記録した。また現在、10万人以上が納税者負担によって運営される難民申請者向けの庇護施設で生活しており、未就労者も多い。さらに、小型ボートによるドーバー海峡横断や、訪問・就労・留学ビザなど合法ルートで入国後に、滞在期限を大幅に超過する不法移民の存在も問題視されている。

政府は、今後の難民申請者は「コア保護ルート」と呼ばれる暫定制度の対象とする方針を示した。それに伴う難民保護・送還政策の主な改正点(詳細は添付資料表参照)は次のとおり。

  • 難民認定期間を現行の5年から2年半に短縮し、帰国が困難な場合に限り更新を認める。
  • 永住権取得までの要件期間を5年から20年へ延長。
  • 英国での居住を希望し、かつその意思と能力を有する難民に対して、新たに「難民向け就労・就学ビザ(注1)」を設置し、暫定的な「コア保護ルート」からの移行を促す。難民の就労促進のため、就労可能でありながら働かない者への給付金の廃止について協議を行う予定。
  • 議会会期終了までに難民申請者向けの庇護施設としてのホテルの利用をやめ、代替として軍事施設など大規模施設への移行を検討する。
  • 難民申請者への支援を「義務」とした現行法を廃止し、法的「権限(注2)」に基づくものへ戻す。
  • アンゴラ、コンゴ民主共和国、ナミビアの3カ国に対し、送還協力が改善されない場合にはビザ発給の停止を含む制裁を科す(注3)。

今回の声明は、デンマークの難民保護制度を参考に設計された。デンマークでは、難民認定は一時的な措置とされ(注4)、安全な避難場所が必要な期間に限定して保護を行う。難民申請が却下された人の国外退去も積極的に推進されている。2024年に、デンマークの難民申請件数は40年ぶりの低水準となった。

(注1)本ビザルートへの加入および所定の審査基準の充足により、難民が家族を呼び寄せることができる。

(注2)難民申請者への支援を「義務付ける」法律は廃止されるが、規則を順守する移民への支援は継続される。

(注3)政治専門誌「ポリティコ」(11月17日)によると、これら3カ国は英国から送還された自国民(不法移民および外国人犯罪者)計4,000人以上の受け入れを拒否している。英国政府は段階的な制裁発動までに1カ月の猶予期間を設ける方針。

(注4)CNN(11月19日)によると、2015年以前は、デンマークでは難民は5年間滞在が可能で、居住許可は自動的に永住権へ移行していた。しかし現在は、居住許可期間が1~2年に短縮され、永住権申請までに8年の滞在に加え、デンマーク語能力や数年間のフルタイム就労経験が求められている。

(バリオ純枝)

(英国、デンマーク、アンゴラ、コンゴ民主共和国、ナミビア)

ビジネス短信 740cada3c5f644a7