フランス、国家宇宙戦略を発表

(フランス、EU、インド、日本、米国、アラブ首長国連邦、仏領ギアナ)

パリ発

2025年11月14日

フランスのエマニュエル・マクロン大統領は11月12日、トゥールーズの空軍基地で宇宙司令部(CDE)の初の実戦運用体制を発足させるとともに、2040年を視野に入れた「国家宇宙戦略」を発表外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます(フランス語)した。戦略の詳細は、首相府付国防・国家安全保障総事務局(SGDSN)のサイトから入手できる(発表資料PDFファイル(外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます)、フランス語)。

国家宇宙戦略は、2025年11月下旬の欧州宇宙機関(ESA)閣僚級会議や2026年春の宇宙サミットを前に、フランスが欧州の宇宙分野で競争力を維持し、民間・軍事両面で主導権を確保する狙いがある。マクロン大統領は「今日の戦争はすでに宇宙で始まっている。明日の戦争は宇宙から始まる。われわれは備えなければならない」と述べ、通信・観測・防衛の自律性確保に向けた国家宇宙戦略の必要性を強調した。

同戦略は、(1)宇宙への自律的アクセス、(2)産業競争力強化、(3)防衛能力拡充、(4)科学探査推進、(5)国際協力深化の5本柱で構成。宇宙への自律的アクセスは、ギアナ宇宙センター(注1)の近代化や、アリアン6ロケットの打ち上げ頻度向上、再利用、低コスト技術の開発を進めるほか、小型ロケットや国際パートナーへの同センターの開放も計画する。

産業面では、打ち上げ機からデジタルサービスまで産業モデルを再構築し、スタートアップ支援と人材育成を強化。防衛分野では、空軍を「空軍・宇宙軍」に改編し、2026~2030年に42億ユーロを追加投資、レーザー兵器や電磁妨害技術、監視レーダー、パトロール衛星の導入を進める。

科学探査では、資源探索や軌道上での生産を推進。国際協力は、欧州内連携を優先しつつ、インド、日本、米国、アラブ首長国連邦(UAE)とも協力を強化する。

さらに、マクロン大統領は演説で「欧州の宇宙は脆弱(ぜいじゃく)だ」と警告し、欧州レベルで「競争力強化」「欧州優先」「ガバナンス強化」が不可欠と訴えた。競争力では、スタートアップ支援や企業統合、公共調達で欧州企業を優先。IRIS²通信衛星計画(注2)の加速を求めるなど、EUが宇宙政策の政治的リーダーシップを発揮する必要性を訴えた。

財政面では、軍事分野とは別枠で2030年までに民生・デュアルユース用途に160億ユーロ超を投資。資金は国家主権分野、ESAを通じた欧州協力、EU主導プログラムに配分し、フランス国立宇宙研究センター(CNES)を通じた国際プロジェクトも継続する。マクロン大統領は、宇宙分野を戦略的主権・産業・経済の要と位置付け、財政健全化戦略の中でも優先する方針を示した。

(注1)フランス領ギアナ(南米)にあり、ESAとCNESが運営する欧州の主要なロケット打ち上げ基地。

(注2)IRIS²外部サイトへ、新しいウィンドウで開きますは、EUが進める通信衛星網構築計画で、2030年までに欧州全域に自律的で安全なデジタルサービスを提供し、デジタル主権を確保することを目的とする。

(山崎あき)

(フランス、EU、インド、日本、米国、アラブ首長国連邦、仏領ギアナ)

ビジネス短信 673ed8c7b73db65c