台湾で米関税政策の影響は金属・機械工業、地域は中部が最も深刻
(台湾、米国)
調査部中国北アジア課
2025年11月18日
台湾労働部がこのほど発表した10月末の労使間協議による労働時間減少実施人数(いわゆる無給休暇)は8,331人となり、米国の追加関税が発表された直後の2025年4月末時点の2,266人から6,065人増加した(添付資料図参照)。無給休暇は、受注や生産減少などの状況下、従業員の解雇を避けるため労使が協議し、無給で労働時間を減らす際に使われる。
米国は台湾に対する相互関税率を4月2日に32%と発表し、その後の交渉を経て、7月31日にドナルド・トランプ米大統領が署名した大統領令では、同税率を20%〔+最恵国待遇(MFN)関税率の累加〕に引き下げた。台湾当局は同税率のさらなる引き下げとMFN税率との重複課税を行わないかたちを目指して交渉を継続中と説明しているが、同税率による相互関税の課税は、米国東部時間8月7日午前0時1分から適用されている。台湾の主要輸出品目の半導体や電子部品は相互関税の対象外とされているが(注1)、これら品目以外の従来型製造業では、相互関税による影響が表れ始めている。また、1962年通商拡大法232条に基づく個別品目に対する調査結果(注2)次第で、半導体・同関連製品に対する追加税率が課される可能性もある。
台湾当局が行った従来型製造業に対する米国関税政策の影響分析結果によると、影響があるとされるのは、機械(1万6,000社、約30万人)、自動車部品(1,741社、約7万3,000人)、自転車(993社、約3万7,828人)、ねじ(2,011社、約3万9,000人)、金物(314社、約1万5,000人)、手工具(2,509社、約5万人)、プラスチック製品(企業数非公表、約15万5,700人)、紡績(企業数非公表、13万2,300人)など。企業数と就業人口が最も多いのは機械産業、うち工作機械は企業数1,666社、就労人数約3万4,000人に上るとされた。
業種別の無給休暇の実施人数を見ると、最も多いのは金属・機械工業の6,019人で、全体の72.2%を占める(添付資料表1参照)。地域別では中部の台中市が2,493人(シェア29.9%)と最多だった(添付資料表2参照、注3)。台中市には工作機械を含む機械が集積しており、影響が顕著となっている。台中市労働局によると、10月末までの同市の無給休暇の実施企業数は131社、2,493人、このうち関税と為替の影響を理由とした企業が125社、2,434人を占めた(「中国時報」11月13日)。
従来型製造業への影響が広がる中、台湾全体の2025年1~10月の輸出額は半導体、人工知能(AI)サーバーなどのハイテク製品が牽引し、前年同期比31.8%増の5,145億ドルと高い伸びをみせている。台湾経済はマクロ的には好調を維持しているものの、域内ではハイテク産業とその他産業との間で格差が鮮明になっている。
(注1)大統領令(2052年4月2日)の付属書2に列挙されている医薬品、半導体、重要鉱物、エネルギーおよび関連製品などは、11月17日時点で相互関税の対象外とされている。また、4月5日に遡及(そきゅう)してスマホなどを対象外に追加、大統領令(9月8日)で付属書2を一部修正。
(注2)米国商務省産業安全保障局(BIS)は2025年4月16日公示の官報(半導体
/医薬品
)で、232条に基づき、両品目の輸入が米国の国家安全保障に及ぼす影響を判断するための調査を開始したと発表した(2025年4月15日記事参照)。
(注3)同市内の科学技術産業パークおよびサイエンスパークにおける実施人数は内数に含まず。
(江田真由美)
(台湾、米国)
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