スペイン、対イスラエル武器禁輸が本格施行
(スペイン、イスラエル、米国)
マドリード発
2025年10月15日
スペイン下院は10月8日、「ガザにおけるジェノサイドに対する緊急措置およびパレスチナ支援法」を可決した。同法は9月23日に閣議承認され暫定施行されていたが、本格施行には議会の事後承認が必要だった。
スペイン政府によれば、これにより同国はイスラエルとの武器輸出入を法的に禁止した世界初の国家となる。スペインは2023年10月のガザ紛争激化直後から、事実上イスラエルへの武器輸出を停止していたが、今回の法制化によって輸入およびトランジット(通過)が正式に禁止された。
具体的には、武器・弾薬・防衛装備品や軍民両用技術のイスラエルとの輸出・輸入(通過を含む)を全面禁止し、スペイン領を経由する軍事利用可能な燃料輸送も認めない。これらの規定は既存の輸出入ライセンスにもさかのぼって適用される。また、イスラエルがパレスチナ自治区の入植地で生産した製品の輸入や広告・販売促進も禁止される。ただし、外交・安全保障上の理由など国益に関わる場合は、閣議決定で例外を認めることができる。
スペイン政府は2025年6月ごろから、イスラエル企業または同国技術を利用した武器・装備品の調達契約を相次いで取り消し、「脱イスラエル化」を進めている。ペドロ・サンチェス首相は9月22日、ニューヨークで開催された「パレスチナ問題の平和的解決および二国家解決の実現のためのハイレベル国際会議」で、パレスチナの国連正式加盟を呼びかけ、「ガザでの暴力行為を即時に止めるため勇気ある措置を主導する」と表明した。パレスチナ問題は、現在のスペイン外交の最優先事項の1つで、国内的にも閣外協力政党との結束強化につながっている。世論調査では、国民の約6割が「ガザでの行為はジェノサイド」と回答し、パレスチナへの共感の高まりが政権支持を下支えしている。
安全保障上のリスクの指摘も
イスラエルのギドン・サール外相は9月8日、サンチェス首相が同法構想を発表した直後、「スペイン政府は反イスラエル路線を主導することで、国内の汚職スキャンダルから注意を逸らそうとしている」と反発。米国務省も「NATO加盟国のスペインが、米国の輸送オペレーションを制限することを深く懸念している」と報じられた(9月10付ロイター)。
主要シンクタンク「王立エルカノ財団」は9月10日、スペインは電子戦やサイバー防衛分野でイスラエル技術に依存しており、禁輸により代替供給先を急ぎ探す必要があると指摘。米国との防衛協力縮小(米軍がモロッコを代替拠点とする可能性)への懸念も示した。また、議会による法案可決に先立つ10月7日付の現地メディアでは、最大野党・民衆党(PP)は禁輸よりもドナルド・トランプ米大統領の和平案の方が効果的だと批判した、と報じられた。
(伊藤裕規子)
(スペイン、イスラエル、米国)
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