電子身分証明書と、州による別荘への特別固定資産税の導入が国民投票で可決

(スイス)

ジュネーブ発

2025年10月09日

スイスで9月28日に国民投票(注1)が実施された外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます。電子身分証明書(ID)の導入に関する任意のレファレンダム(注2)と、所有不動産の推定賃貸価値への課税を廃止し、州が別荘への特別固定資産税の課税を可能にする強制的レファレンダム(注3)を巡るもので、国民投票の結果、賛成票がそれぞれ50.39%と57.73%で、ともに可決された。

オンラインで注文したり申請したりする際に、本人確認が必要になる場合がある。そのため、電子身分証明書(e-ID)を導入する法案が2018年6月に提案、2019年に国民議会(下院)と全州議会(上院)で可決されたが、2021年3月の国民投票で否決された経緯がある。その際は、e-IDが民間事業者により発行されることが反対者の主な理由だった。新法では、e-IDの責任は連邦政府に委ねられており、連邦政府はe-IDを発行し、必要な技術インフラを運用することで、プライバシーとデータセキュリティーを最大限に保護することを規定している。また、今回可決された新法は、国が発行するe-IDの基盤を構築するもので、利用者はe-IDを使用して、当局や企業に対して本人確認の証明を行うことができるようになる。例えば、電子運転免許証の発行や、年齢制限のある商品を購入する際の年齢証明としての使用などが想定されている。なお、e-IDの使用は任意で、無料となっている。

また、もう一方の法案は、不動産課税制度の見直しを内容としていた。現在スイスでは、不動産を所有し、自ら使用している場合、推定賃料(賃貸価値)に対して所得税を支払う必要がある。その見返りとして、住宅ローンの利息と維持費を課税所得から控除することができる。長年の議論を経て、議会は推定賃貸価値への課税を廃止し、控除の選択肢を制限する法律改正案を可決した。これは、主たる住宅と別荘の両方に適用されるもので、議会は同時に、州が別荘に特別固定資産税を導入することを可能にする憲法改正案を可決した。税の新設には憲法改正が必要になるため、国民投票にかけられることになった。連邦参事会(内閣に相当)は、主たる住居のみに対して賃貸価値課税を廃止し、別荘への課税は維持することを望んでいた。しかし、国民議会は完全廃止を支持し、この選択肢が最終的に採用された。別荘の賃貸価値に対する課税が廃止されると、住宅ローン金利が低い状況では、特に観光地の多い州では税収の減少につながる可能性があることから、州に対して、主に個人使用の別荘に対して、特別固定資産税を課税する選択肢を残した。

(注1)スイスでは年に最大4回、国民投票が実施される。

(注2)議会が可決した法律の是非について国民が投票するもの。

(注3)議会が重要な憲法改正を行う場合に国民が投票するもの。

(田中晋)

(スイス)

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