ジェトロ、米国でのM&A戦略と法的留意点に関するウェビナー開催

(米国、日本)

ニューヨーク発

2025年10月16日

ジェトロは10月1日、米国ニューヨークで「米国進出を成功に導くM&A戦略と法的留意点」と題したウェビナーを開催した。製造業や商社の関係者、弁護士、会計士など専門職を中心に、230人以上が参加した。同ウェビナーは、ジェトロの中小企業海外展開現地支援プラットフォーム事業の一環として開催し、同事業の法務コーディネーターを務めるSGR法律事務所の小島清顕弁護士、山﨑真司弁護士が講師として登壇し、米国でのM&Aの基本的なプロセスと、日本との制度・実務慣行の違いについて、実務経験に基づいて体系的に解説した。

小島弁護士、山﨑弁護士による講演の概要は次のとおり。

米国では、意向表明、基本合意書(LOI)の締結、デューディリジェンス(DD)の実施、最終契約の交渉、クロージング、買収後の統合(PMI)という流れが一般的で、各段階で求められる法的対応や交渉戦略が日本とは大きく異なる。

特にLOIでは、法的拘束力が限定的な一方、心理的・慣習的な拘束力を持つため、価格や支払い方法、独占交渉条項、エスクロー(デポジット)の有無など、後続の契約交渉に影響を与える重要な文書だ。また、米国では表明保証保険やエスクロー制度の活用が一般化しており、反トラスト法(日本の独占禁止法に相当)や、対米外国投資委員会(CFIUS)などの規制対応も不可欠となる。

デューディリジェンスでは、財務、法務、税務、人事、ITシステム、環境規制など多岐にわたる領域を網羅的に調査する必要があり、調査の質が表明保証保険の適用範囲にも影響する。契約交渉では、重大な悪影響や売り主の知識範囲などの定義条項、価格調整、アーンアウト条項(注1)、補償条項、ディスクロージャースケジュール(注2)の設計が交渉の焦点となる。

さらに、M&Aの成功には買収後の統合が不可欠だ。統合戦略の方向性の決定や、統合チームの構築、業務領域ごとの統合計画の設計、文化の融合など、クロージング後を見据えた準備が求められる。特に最初の100日間の対応が統合の成否を左右するとの指摘があり、従業員の心理的ケアも含めた統合設計の重要性が強調された。

ウェビナー後のアンケートによると、「今後、米国でのM&A検討時の指針となるポイントが良く理解できた」「米国現地の肌感覚を理解することができた」「米国でのM&Aのキーポイントを再確認する良い機会となった」といった声が聞かれた。

このウェビナーは、こちらのページからアーカイブ動画を配信中。

(注1)M&Aでの支払い対価の調整方法の1つで、一括で支払うのではなく、一定の目標達成を条件に分割して対価の支払いを行う。

(注2)表明保証の例外事項や詳細情報を記載する付属文書。

(堀田基、奥修平、部谷亜里香)

(米国、日本)

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