ASEAN経済相会合が保護主義に懸念、10月の首脳会議でATIGA改正署名
(ASEAN、マレーシア、インドネシア、カンボジア、シンガポール、タイ、フィリピン、ブルネイ、ベトナム、ミャンマー、ラオス、東ティモール)
ジャカルタ発
2025年10月02日
第57回ASEAN経済大臣会合(AEM)が9月23日、マレーシア・クアラルンプールで開催され、ASEAN加盟国の経済相や各国代表らが出席した。
ASEAN事務局(本部:インドネシア・ジャカルタ)によると、会合後の声明で「世界全体の経済成長率予測は2.8%にとどまる一方、ASEAN経済は2024年に4.8%、2025年には4.2%の成長する見込み」と強調した。併せて、「保護主義の拡大傾向と、一方的な貿易措置の増加が多国間貿易体制に重大なリスクをもたらす」との懸念を表明した。さらに、外的ショックに対する地域経済の回復力をさらに強化するため、短期から長期にわたる提案で構成する「ASEAN地経学タスクフォース」(注1)の予備的提言を認識した。
マレーシアのASEAN議長国年における9つの優先経済成果(PEDs、注2)のうち、ASEANと湾岸協力会議(GCC)間の経済協力に関する共同宣言、ASEAN物品貿易協定(ATIGA)改正第2議定書の署名、ASEAN中国自由貿易地域(ACFTA)3.0議定書の署名に関するPEDの実質的な完了を歓迎した。ACFTA3.0議定書とATIGA改正交渉の署名については、10月26~28に開催される第47回ASEAN首脳会議・関連首脳会議に合わせた署名を目標とした。
このうち、改正後のATIGAについて、「循環型経済、再製造品(リマニュファクチャリング)、貿易と環境、人道危機状況下での貿易、食糧安全保障、サプライチェーン連結性などの新たな課題に対応する」とした上で、非関税障壁の乱用防止、透明性向上、市場アクセスの深化、地域のサプライチェーンへの参画促進に向けた規定の強化や加盟国間の物品貿易での紛争解決を迅速化する代替的紛争解決(ADR)メカニズムを導入し、「域内の貿易・投資を円滑化する」と強調した。
また、ASEANのデジタル経済統合を加速させるASEANデジタル変革アジェンダのうち、最終段階の行動項目に位置付けられるASEANデジタル経済枠組み協定(DEFA)の実質的な妥結を期待するとした上で、同協定を「デジタル技術の活用という将来を見据えた経済を目指すASEANの歩みの中で、地域デジタル統合の次の段階の基盤だ」と表現した。
対話パートナーとのアジェンダとしては、ASEANインド物品貿易協定(AITIGA)の見直し交渉の継続、ASEANカナダ自由貿易協定(ACAFTA)交渉の良好な進展、ASEAN韓国自由貿易地域(AKFTA)のアップグレードに向けた共同予備折衝文書の最終化の進展を確認した。ASEANと環太平洋パートナーシップに関する包括的および先進的な協定(CPTPP)との対話に向けた取り組みにも合意した。
会合に出席したASEAN経済相(ASEAN事務局提供)
(注1)同タスクフォースは、7月に開催されたASEAN外相会議で予備的な提言として、(1)地域経済統合の深化、(2)地域的な包括的経済連携(RCEP)協定などの貿易協定の完全な実施、(3)ASEANの中心性を生かした新たな経済秩序の形成の3点を提示していた(2025年7月17日記事参照)。
(注2)マレーシアが議長国を務める2025年のASEANの優先的な経済成果(PEDs:Priority Economic Deliverables)は、(1)ASEAN物品貿易協定(ATIGA)の改定交渉の妥結、(2)ASEANインド物品貿易協定(AITIGA)の改定交渉の実質妥結、(3)ASEAN中国自由貿易地域(ACFTA)3.0改定議定書への署名、(4)湾岸協力会議(GCC)との協力に関する宣言、(5)ASEAN持続可能な投資ガイドライン(ASIG)の採択、(6)ASEAN電気自動車(EV)実行計画を支援する政策提言とガイドラインの作成、(7)ASEAN統合半導体サプライチェーン枠組み(AFISS)の策定、(8)ASEANデジタル経済枠組み協定(DEFA)の実質妥結など(2025年3月10日記事参照)。
(大滝泰史)
(ASEAN、マレーシア、インドネシア、カンボジア、シンガポール、タイ、フィリピン、ブルネイ、ベトナム、ミャンマー、ラオス、東ティモール)
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