オーストリア企業、防衛産業への参入目指す

(オーストリア、EU)

ウィーン発

2025年10月27日

最先端のIC基板やプリント基板を製造するオーストリアのAT&Sは10月14日、同国産業界が生産量の減少と人員削減という厳しい局面を迎えている中で、2025年内に150人の新規雇用を募集すると発表した。

人員拡充の背景には、6月に正式に稼働した新基板工場「ヒンターベルク3」の存在がある。同工場は世界初の「メード・イン・ヨーロッパ」基板を製造しており、今後は防衛分野の顧客にも積極的にアプローチしていく方針だ。AT&Sの最高経営責任者(CEO)ミハエル・マーティン氏はさらなる受注への期待を寄せている。

好況な防衛産業への参入を低迷からの脱却戦略として検討しているオーストリア企業はAT&Sだけではない。革新的なモビリティーシステムの開発で知られるパワートレイン大手のAVLリストは、自動車産業の長引く不況のため、2025年に既に350人のリストラを余儀なくされた(8月18日付、同国公共放送ORF)。現在の主要顧客は自動車メーカーだが、防衛産業への供給も視野に入れている。同社は軍民両用のアプローチを採用しており、開発中のテストベッド、センサーやソフトウエアは軍事的な輸送機器にも応用可能だ。

レーシングカーや航空宇宙産業の部品を製造するパンクル・レーシング・システムスやクレーン大手のパルフィンガーも、安全保障部門に貢献することを表明している。

こうした動きの背景には、昨今の地政学的動向を受けて、欧州の防衛費が急激に増加していることがある。EUは「リ・アーム・ヨーロッパ」(欧州の防衛力再構築)プログラムの下、約8,000億ユーロの資金投入を検討している(2025年3月21日記事参照)。

永世中立国オーストリアでさえ、2025~2026年の緊縮予算の中で、防衛費を2025年に前年比約18%、2026年には2025年比で約8.5%増加させる予定だ(注)。

ただし、防衛産業への参入は決して容易ではない。広範な認証やセキュリティー審査、輸出ライセンスが必要で、輸出に当たっては永世中立国としての立場も制約となる。

(注)2025年の防衛予算は47億4,000万ユーロ、2026年は51億8,400万ユーロの見込み。

(エッカート・デアシュミット)

(オーストリア、EU)

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