米国の異例の支援でペソ・ドル相場は安定へ

(アルゼンチン、米国)

ブエノスアイレス発

2025年10月16日

米国のスコット・ベッセント財務長官は10月9日、自身のSNSを通じて、米国政府がアルゼンチン通貨ペソを直接購入したことと、アルゼンチン中央銀行と200億ドル規模の通貨スワップの枠組みで最終合意したと発表した。これを受けて13日にはペソ高が進み、為替バンドの上限を試す動きが続いていたペソ・ドル相場は安定を取り戻した(添付付資料図参照)。

インフレ抑制に最優先に取り組んでいるミレイ政権にとって、為替レートの安定はペソ安による輸入物価の上昇を防ぐ上で重要だが、9月以降は急激なペソ安が進んでいた。その背景には、9月7日にブエノスアイレス州で行われた州議会議員選挙で、ハビエル・ミレイ大統領率いる与党・自由前進(LLA)が敗北を喫したことがある。8月に発覚した大統領側近の汚職疑惑や、10月26日の国会議員中間選挙の与党有力候補の立候補辞退で、政権の先行き不透明感が増し、カントリーリスク指数の急上昇してペソ安が進むなど、金融市場が不安定になっていた。

9月7日以降、為替レートがバンドの上限を超える場面があり、報道によると、中銀は複数回介入して為替レートをバンド内に抑え込んでいた。しかし、介入に必要な外貨準備が不足していることから、アルゼンチンをラテンアメリカで重要な同盟国と位置付ける米国は、中間選挙を前に異例の支援に乗り出した。実際、ベッセント長官はアルゼンチンへの支援発表後の米フォックス・ニュースのインタビューで、「ミレイ大統領は米国にとって偉大な同盟者だ。彼は自国から中国を排除することにコミットしている」と述べている。アルゼンチンのルイス・カプート経済相もインタビューで「カントリーリスク指数の急上昇とペソ相場の変動は政治的攻撃」と述べ、米財務省にペソや債券の購入を継続する用意があり、また、中間選挙後も為替バンド制を維持、通貨切り下げはないことを明言して投機的な動きを牽制した[10月13日付け現地紙「ラ・ナシオン」(電子版)]。

ミレイ大統領は10月14日、ドナルド・トランプ米大統領との昼食会に臨んだ。それに先立って行われた記者会見で、トランプ大統領は「われわれは次の選挙に向けて君を支援するためにここにいる。アルゼンチンが成功すれば、他の国々もそれに続くだろう」「中国には注意が必要だ。時には非常に強硬な姿勢を見せることもある」と述べた。これらの発言からは、ラテンアメリカでの中国台頭への懸念や、左派政権の再登場を防ぐという米国の地政学的、戦略的狙いが透けて見える[10月14日付け現地紙「ラ・ナシオン」(電子版)]。一方、「(ミレイ大統領が中間選挙で)勝たなければ、われわれは協力しない。負ければ、アルゼンチンに対して寛大にはならない」とも述べた。ミレイ大統領は選挙を前に正念場を迎えている。

(西澤裕介)

(アルゼンチン、米国)

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